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新生『ヴァザーリの回廊』、2024年5月頃オープン予定!

フィレンツェの最も古くて美しい橋、ヴェッキオ橋は珍しい二階建ての橋。この上の部分は、実は美術館の一部となっています。

訳あって現在は閉鎖されていますが、このほど、2024年の5月頃に再オープンする予定というニュースが出ました!

フィレンツェ ヴァザーリの回廊 再開のニュース ヴァザーリの回廊:2023年現在閉鎖中。次回公開は2024年5月頃の予定!

『ヴァザーリの回廊』とは

16世紀を代表するマルチ芸術家ヴァザーリの代表作

ご存知の方も多いかもしれませんが、『ヴァザーリの回廊』とは、その設計者であるジョルジョ・ヴァザーリの名を冠する全長1kmの長い廊下。

16世紀の偉大な美術史家、ジョルジョ・ヴァザーリ。トスカーナ大公も絶大な信頼を置いた『総合芸術家』の人生とは?


ヴァザーリは、美術史において最重要人物の一人と言ってもいいほど、大切な人。そうそうたる彼の功績の一部を挙げてみるとこんな感じです。

  • 芸術家列伝(画家・彫刻家・建築家列伝』(当時代以前の芸術家についての詳細な伝記)の執筆
  • ヴェッキオ宮殿の内部装飾のプロジェクト
    『五百人広間』の装飾プログラム、『フランチェスコ1世の書斎(ストゥディオーロ)』設計および装飾、『四元素の区画』装飾プログラムおよびフレスコ画装飾 など
  • ウフィツィ美術館の設計
  • フィレンツェのドゥオモ内部クーポラのフレスコ画最後の審判(一部)』
  • サンタ・クローチェ聖堂ミケランジェロの墓碑モニュメント
  • 美術アカデミー「Accademia delle arti del disegno(アカデミア・デッレ・アルティ・デル・ディゼンニョ)」の創立


…などなど、そしてさらに画家としての功績も多数あり。とにかく仕事が速く、多方面の才能を持つ人で、メディチ家コジモ1世に仕えるようになってから上記の数々のプロジェクトの多くを同時進行でこなしています。

そして『ヴァザーリの回廊』はそんな16世紀を代表するマルチ芸術家ジョルジョ・ヴァザーリの最も大切な仕事の一つなんです。

仕事場と住居を結ぶ便利な回廊

さて、回廊の全体図はこんな感じ。ヴェッキオ宮殿からウフィツィ美術館を抜けて、アルノ川に架かるヴェッキオ橋の上を通り、アルノ川の南側のピッティ宮殿まで到達することのできる全長1km(ピッティ宮殿~ウフィツィ美術館までは760m)の長ーい廊下です。


もともと、ヴェッキオ宮殿は歴史的に政治的権力の象徴だった建物だったので、コジモ1世がメディチ・リッカルディ宮殿から住居を移し、そこに隣接するウフィツィ美術館はコジモ1世が仕事しやすいようにと作られた建物でした。

ガイド学校の先生カテリーナ
ガイド学校の先生カテリーナ

Uffiziウッフィツィ」とは、英語だと「オフィス」のこと。つまり、もともと事務所として構想された建物だったわけね~


ピッティ宮殿は、メディチ家のライバルだったピッティ家が15世紀に建てたものですが、体の弱かったコジモ1世の妻、エレオノーラ・ディ・トレドが健康的に暮らせるよう、16世紀に購入した建物です。

コジモ1世とエレオノーラ・ディ・トレド
ガイド学校の先生カテリーナ
ガイド学校の先生カテリーナ

エレオノーラは結核を患っていたので空気のきれいでない街中のヴェッキオ宮殿は身体によくなかったのよ~それにナポリの明るい宮廷育ちの彼女には、窓の少ないこの宮殿はあまりお気に召さなかったのよね~

ガイド学校の先生カテリーナ
ガイド学校の先生カテリーナ

あと、彼らの間にはたくさんの子どもたちが生まれたのだけど、(時代的な要因はあるにせよ)成人に至らなかった子どもも多かったの。それについても、エレオノーラはフィレンツェの街中の「不健康な」環境がよくなかったから、と考えたと言われているわ~



そういうわけで、新しいお家(ピッティ宮殿)から仕事場(現ウフィツィ美術館)までを結ぶ通路を作ってしまおう!というアイデアが生まれたのです。

この通路は途中にある建物の内部をつっきって、教会の前の部分を横切り、橋の上に2階部分を増築して作られています。

【左】サンタ・フェリチタ教会の前を横切るヴァザーリの回廊 【右】教会内部から見た回廊が格子越しに接している様子


地上を歩かなくてもいいので雨にも濡れないし、暗殺者に命を狙われる心配もなし!こっそり市井の様子をうかがい知ることもできる!…と、なんともいいことづくめの廊下だったんです。

この回廊を作る前は、ヴェッキオ橋は狭いし人が多いしで馬車で通れなかったので、わざわざ一つ西のサンタ・トリニタ橋を迂回して川の南北を行き来しなければならなかったのも不便だったのでしょう。

旅好きナナミちゃん
旅好きナナミちゃん

それにしても、こんな長い廊下を作っちゃおう!て思いついちゃうところが、さすがメディチ家…

そしてアイデアだけでなく、実現できる財力もさすが、というべきですね。

トスカーナ大公の跡継ぎの結婚式のために作られた

実はこの回廊、アイデア自体は上記の通り仕事場と住居を結ぶ通路だったんですが、名目としてはコジモ1世の長男で跡継ぎのフランチェスコ1世と、ジョヴァンナ・ダウストリアの結婚を機に作られました。

フランチェスコ1世・ディ・メディチとジョヴァンナ・ダウストリア


というのも、このお嫁さん、ジョヴァンナ・ダウストリアは時の神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世の妹。これまでフィレンツェの名家やローマの貴族、ナポリ副王などからお嫁さんをもらって、少しずつ家の格を上げてきたメディチ家ですが、皇帝の親族となると別格も別格!

ヨーロッパ一の宮廷である皇帝家からお輿入れするジョヴァンナを迎える、豪華壮麗な結婚式を演出するため、このヴァザーリの回廊に加え、ヴェッキオ宮殿の五百人広間の装飾や第一の回廊のフレスコ画装飾、そしてヴェッキオ宮殿前の『ネプチューンの噴水』などが突貫工事で仕上げられました。

というわけで、1565年3月に開始された回廊の工事は、同年12月18日の結婚式のまさに前日、12月17日に仕上がったのでした。

旅好きナナミちゃん
旅好きナナミちゃん

前日…!!なんてギリギリな…この辺はいまのイタリア気質とあまり変わってない気がする…笑

橋の上の店はジュエリー店に総入れ替え

実はこの廊下を一番愛用したのは、結婚式のために作ってもらったフランチェスコ1世ではなく、その弟で次代トスカーナ大公のフェルディナンド1世でした。

ところで当時、ヴェッキオ橋の上に並んでいたお店はいまと違ってお肉屋さんやお魚屋さんのような庶民の生活に結び付いた商店でした。

でも、フェルディナンド1世にはこれがお気に召しませんでした。なぜなら…

フェルディナンド1世
フェルディナンド1世

せっかく誰にも邪魔されずに景色を楽しめながら通れる便利な通路!なのに、なのに、…ニオイが…!泣


そう、橋の上にお肉屋さんやお魚屋さん…致し方ないことですが、どうしても生の食品を扱うし、食用に加工したそれらの要らない部分を当時は川に投げ捨てていたので、ニオイが発生してしまいます。

このニオイに我慢ならなかったフェルディナンド1世、ついに橋の上のお店を強制退去させてしまいました。
そして…

家来
家来

殿下、空き家となったこれらの場所はいかがいたしましょう?

フェルディナンド1世
フェルディナンド1世

そうだな…、余の愛する貴金属細工でいっぱいにしよう!橋の上が金銀で輝く、気品溢れる良き世界じゃ…


そういうわけで、ヴェッキオ橋の上のお店はすべて貴金属細工を扱う店に。そして今でもこの橋はその姿の美しさと橋の上のきらびやかさから、別名「ゴールデンブリッジ」と呼ばれています。

ヴェッキオ橋の上は、端から端までキラキラの貴金属細工でいっぱい!!
フィレンツェが誇る、ヴェッキオ橋。「古い」だけあって、歴史エピソードてんこ盛り!

かつては自画像コレクションが展示されていた

この『ヴァザーリの回廊』には、1973年から2016年の閉鎖前では自画像コレクションが展示されていました。これは17世紀のトスカーナ大公フェルディナンド2世の末弟、枢機卿Leopoldo de’ Mediciレオポルド・デ・メディチが集めたコレクションを基とする、16世紀以降の芸術家の自画像を中心とする膨大なコレクションです。シャガールなど、近年の作家の自画像もあります。

これらのコレクションは今回の工事に伴ってウフィツィ美術館内に移設されました(2023年10月現在、2Fに設置)。

ウフィツィ美術館 肖像画コレクション
ガイド学校の先生カテリーナ
ガイド学校の先生カテリーナ

ルーベンスレンブラントの色々な年齢の自画像や、マリー・アントワネットの肖像画を描いたルブランカノーヴァルカ・ジョルダーノディエゴ・ベラスケス…などなど、さまざまな時代・地域の芸術家の自画像がずらーり!!とっても見ごたえあるわよ~

2016年から安全を確保するための緊急工事

さて、そんな『ヴァザーリの回廊』ですが、2016年から閉鎖されていました。

この廊下、上述のようにとても長い通路なんですが、実は入り口と出口しかなかったんです。つまり、何かあったときの緊急避難口が全くなく、なおかつ空調システムがありませんでした。あと、ユニヴァーサルデザインにもなっていなかったので、車いす利用などの入場者には入ることのできない場所だったんです。

上記に加え、古い建物であることから防火上の懸念があること、さらに構造上の弱さなども消防から指摘されたため、これらの弱点を改善するための緊急工事が決定されました。

フィレンツェだけでなく、近隣の県や建築家や修復士など専門家の協力の元、18カ月にわたる調査・研究を経て、プロジェクトが立ち上がりました。当初の予定では2年ほどで再オープン(2018年頃の予定)、…という話でしたが、資金難だったり、Covid19があったり、…と様々な事情で再開は延期され続けました。

Azu
Azu

何度も「今度こそ開くかも…!」と期待させられました…詳しくはこちらに

フィレンツェ ヴァザーリの回廊 再開のニュース ヴァザーリの回廊:2023年現在閉鎖中。次回公開は2024年5月頃の予定!

また、延期の理由のひとつにはこの工事の間に思いがけない発見があったことも。長い歴史の中で恐らく改築や修復が何度か行われてきた回廊ですが、今回の工事ではヴァザーリの建築当時のオリジナルの床や、1500年代の建築物の一部が発見されたそうです。

この歴史上の貴重な発見とその保護・展示のため、プロジェクトの見直しも必要となり、また工事期間が延長されることになりました。

Azu
Azu

嬉しい発見の反面、またお金が必要になり…、というイタリアあるあるですね!

新生・ヴァザーリの回廊はこんな様子に

2024年5月27日、再開を祝うセレモニー

2023年10月13日に報じられた内容によると、トスカーナ州知事のエウゲニオ・ジャーニ氏が「2024年5月27日に『新生・ヴァザーリの回廊』を祝うセレモニーを行います」と発表したとのこと。

この少し前に、アメリカの財団が回廊整備のための100万ドルの寄付を行った、というニュースがウフィツィ美術館公式サイトにも掲載されていたので、それにより再開のめどが立った、ということでしょうか。

2024年は『ヴァザーリの回廊』をオーダーしたメディチ家のコジモ1世、そして設計・建築したジョルジョ・ヴァザーリが共に死去した1574年から450周年というメモリアル・イヤーということでいいタイミングに当たった、という感じですね。

ちなみに、この5月27日というのはフィレンツェおよびウフィツィ美術館が記憶する、とても悲しい事件が起こった日。ウフィツィ美術館の裏側Via dei Georgofiliヴィア・デイ・ジェオルゴーフィリにおいて、マフィアが仕掛けた爆弾が爆発し、近隣住民5人が死亡、ウフィツィ美術館の建物や所蔵品の一部も多大な損害を負ったという事件です。

この風化させてはいけない歴史的事実の記念日に、新生ヴァザーリの回廊はオープンすることになりました。

このセレモニーの後、恐らく一般公開へという運びになるのだと思われます。

待ちに待った再開、楽しみです!

新しいコレクションの展示(予定)

新生ヴァザーリの回廊では、これまで表に出ていなかったウフィツィ美術館の隠し財産が多々展示される様子…

ガイド学校の先生カテリーナ
ガイド学校の先生カテリーナ

ウフィツィ美術館のコレクションは途方もない数で、表に出ているのはごくごく一部だからね~

一例としては、

  • 古代ギリシア・ローマ時代のギリシア語・ラテン語による大理石の碑文約300点
  • ヘレニズム時代およびローマ時代の彫刻コレクション
  • 1500年代の剥離フレスコ画

こんな感じで、大半が新しく魅力的な考古学セクションとなる予定です。ちなみにこれらの彫刻コレクションは、かつてはヴァザーリの時代には回廊自体の外側を飾っていたようです。

なお、消防法上の制限で、燃えやすい絵画作品の展示はなくなるようです。

また、この回廊が証人となった以下の重大な歴史上の事実についても写真による展示が予定されています。

  • 1944年8月4日、フィレンツェを占領していたドイツ軍撤退の際の爆破
  • 1993年5月27日、マフィアによる爆破事件

内部のコース(予定)

以下は2020年7月時点のプロジェクト内容です。

MEMO

以下は2020年7月時点のプロジェクト内容です。

新生ヴァザーリの回廊では、エレベーターやスロープも備えられ、ハンディキャップのある人でもアクセスできるように。また、内部にはトイレや空調システムも整備されました。さらに改装工事の原因となった非常口についても5つ設置されるとのことです。

回廊へのアクセスは、ウフィツィ美術館側から。順路は一方通行で、出口はボーボリ庭園またはピッティ宮殿内のいずれかを選択となるようです。

ウフィツィ美術館側の入り口は建物西側の棟の1F部分(現・当日券チケット売り場)からエレベーターで2Fに上がり、回廊内部へ。安全上の理由から一度に入場できる最大人数は125人までと制限されています。

さらに、展示作品保護のためこれまでふさがれていた73の窓が、外を見ることができるように“復活”するとか。これにより、まさに空中散歩を楽しむことができますね!

チケット情報(予定)

チケット情報については、今のところ発表されていません。

が、閉鎖前は必ず有料のガイドツアーに入らなければならなかったのですが、新生『ヴァザーリの回廊』では個別チケットの入場が可能になるとか。入口はウフィツィ美術館ですが直接回廊へ入ること、出口はピッティ宮殿またはボーボリ庭園という情報から考えると、後者のチケット+αの金額になるのでは…?と思われますが、詳細はまだわかりません。

情報が入ったらこちらのページでお知らせしますね!

旅好きナナミちゃん
旅好きナナミちゃん

でもフィレンツェの街を空中散歩…!貴重な機会だし、行ってみたーい!