フィレンツェで最も有名なダヴィデくんと並んで、もう一人の有名人、ヴィーナスちゃん。彼女が登場する「ヴィーナス誕生」はあまりに有名ですが、同じ作者ボッティチェリの有名作品がもう一つあります。
それは、「春(プリマヴェーラ)」。
見ているだけで幸せ(*´▽`*)になるような、華やかな画面と密やかなラブストーリー、そしてそれが展開されるのはヴィーナスやキューピッド、三美神をはじめとする神話の人物がたくさん登場するロマンチックな世界!
そこに何が描かれているのかわかって見ると、一枚の絵画がより身近に、美しさも増して感じられます。
実はこの作品、数あるボッティチェリの代表作の中でも、解釈が最も難解だと言われています。研究者によって解釈は色々と分かれていますが、今日は私の一番お気に入りの話を解説します!
目次
ボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」はここに注目!
大きさ
写真や映像でイメージするより、実物は非常に大きなパネルに描かれています。
そのサイズは 207cm×319cm!! 液晶テレビなら140インチ!!
(大きすぎて逆にわからない 😀 )
ちょっとお部屋の壁にかかっていると想像してみてください…ね、大きいでしょ?
描かれているもの
そして、全体から受ける印象はとても綺麗で、華やか。
美人・美男がたくさん♡と、たくさんのお花や植物が描かれていて、まさにタイトルそのものの「春」、にぎやかで華々しい感じ。
でもどれが誰で、みんな何をしているんだろう…?
パっと見ただけじゃあまりわからないですよね。…ということで、まずは、画面に描かれている人物のご紹介。
- ヴィーナス(ウェヌス):愛と美の女神
- ゼフィロス(ゼピュロス):西風の神
- クロリス:ニンフ(妖精)
- フローラ:花の女神
- 三美神
- マーキュリー(メルクリウス):神々のメッセンジャー
- キューピッド(クピドー):別名アモレ。ヴィーナスの息子で愛の神
この人物たちが、春の到来を祝っている…でもそれだけじゃないんです。
それぞれの人の視線の先を追ってみましょう(=゚ω゚)ノ
「春(プリマヴェーラ)」の見どころをもっと詳しく解説!
ヴィーナス
この場面全体の中心に位置するのが愛と美の女神、ヴィーナス。
ここは彼女の国、愛と美しさであふれた理想の世界なのです。
その中心に彼女は位置しており、他の人物と比べてひときわ目を引く配置になっています。
これは、背景がほとんどの部分が林の中にいるように描かれているのに対し、ヴィーナスの後ろ部分だけがまるで後光がさしているかのように半円に明るく描かれている効果です。
ゼフィロスとクロリス、フローラ
画面の一番右にいるゼフィロスは、西風の神様。春の訪れを告げる使者とされています。
その彼が恋した相手が、ニンフ(妖精さん)のクロリス。ゼフィロスのすぐ左横に描かれた、可憐な女性です。
ゼフィロスは神話の中では、生まれたばかりのヴィーナスを岸に運んだり、プシュケをアモレの神殿に運んだりと大活躍。
やがて二人は結婚することになり、妻となったクロリスに、ゼフィロスは花を咲かせる力を与えます。だから、よく見るとクロリスの口からは植物の一部が出ているんですね。
そして、このクロリスが変身した後の姿が、そのさらに左横にいる花の女神フローラ。
つまり、この二人は同一人物なのです。
なんで同時に存在してるの…?
細かいことを気にしてはいけません。ここは神話の世界。ナンデモデキル。
フローラは花の女神なので、この世のありとあらゆる花を咲かせる力を持っていて、彼女自身も冠から襟元、身に着けている衣のすべてが様々な花で彩られています。また、手元にはこれから大地に咲かせる花々を持っています。
よく見ると、フローラの足元の花々が一番きれいに、大きく咲いているのがわかります。
一説では、フローラはゼフィロスの子を宿した姿で描かれているともされています
三美神とマーキュリー
ヴィーナスをはさんで左側にいる三人は「三美神」。
美と優雅を司る女神たち三姉妹で、ヴィーナスの侍者とされることもあります。
「三美神」については、誰を含めるのか、昔からとてもたくさんの説があるのですが、一番一般的なのはヘシオドスの示した
- アグライア(典雅・優美)
- エウプロシュネー(喜び)
- タレイア(花盛り・繁栄)
の三人とする解釈。
三人は手を取り合って輪になって、祝うように踊っているようです。
両側の二人はネックレスや、髪飾りなど、とても豪華なアクセサリーをつけています。みんな、身に着けているのがシースルーのとてもセクシーな衣装なので、よりその豪華さが目立っています。
でもここでちょっと気になるのが三美神のうち、真ん中の女性(エウプロシュネー(喜び))。彼女だけは少しよそ見をしているようで、心ここにあらずといった感じです。
その視線の先にいるのは…
左端の男性、マーキュリー、ギリシア名をヘルメスともいい、神々の使いであり商人の神様です。
あの有名ブランドエルメスはヘルメスのフランス語読みですね!
といってもここから名前をとったわけではなく、創業者の名前がエルメスさんというそうよ
マーキュリーは何をしているのでしょうか?
上方を見やって、彼のシンボル、カドゥケウス(ケリュケイオンとも)と呼ばれる杖を使い、こちらに来ようとしている暗雲を追い払うしぐさを見せています。
また一方で、マーキュリーは神々の使者というその役割から、神々の世界と人間の世界を取り持ってくれる存在ともされていて、神話の世界で訪れた春の喜びを人間の世界に知らせてくれる窓口であり、そのためこの外の世界を暗示させる配置にされているとか。
このマーキュリーと、彼を一途な瞳で見つめるエウプロシュネー、二人がまさに恋におちようとしているその瞬間を描いたもので、それを示しているのが…
キューピッド(アモレまたはエロス)
ヴィーナスの上にいるキューピッド。
その金色の矢で射られた者は恋に落ちてしまうとされていますが、いままさにキューピッドの矢はエウプロシュネーめがけて放たれようとしています。
キューピッドが目隠しをしているのは「恋は盲目」を表しているんですって( *´艸`)
この作品は、全体的な印象として正確なデッサンに基づいているとは言い難いのだけど、作者ボッティチェリはこういった神話モチーフの作品を描くときは特に、遠近法などの現実世界にはあまり興味を抱いていなかったのよ!それよりも彼の頭に浮かんだ神話的、理想の世界を再現することが大事だったのでしょうね
いつ、なぜボッティチェリはこの絵を描いたのか
この作品、「春」が描かれたのは、1482年頃とされています。
誰の注文でボッティチェリはこの作品を描いたのか、詳しくはわかっていません。
当時の情報で記録されているのはわずかに、1500年代半ばにヴァザーリが「ヴィッラ・ディ・カステッロ」というメディチ家の別荘で「ヴィーナスの誕生」と一緒に見た、ということ。
カステッロのヴィッラ(メディチ別荘庭園)その前にはフィレンツェ市内ラルガ通り(現カヴール通り)のメディチ邸にあった、という情報のみ。
そのため注文主や目的は諸説ありますが、一般的には、結婚式のために注文された、とされています。
いかにも絵の雰囲気や、描かれているテーマが結婚向きですもんね!(*‘ω‘ *)
恋に落ちる瞬間だったり、結婚して子どもができたカップルだったり…
なんと言ってもそれを象徴する愛と美の女神ヴィーナスが君臨していますから。
注文主はロレンツォ・イル・マニフィコ(ロレンツォ豪華王)、彼が親戚であるロレンツォ・イル・ポポラーノ(ロレンツォ・ディ・ピエロフランチェスコ・ディ・メディチ)という人物の結婚式のために贈った、という説が広く知られています。
ロレンツォ・イル・ポポラーノ自身が注文したとする説もあり、まさに諸説あり。
それにしてもよくあることですが、イタリア人の名前ってキリスト教の聖人由来のものが多いので、名前がかぶって誰の話をしているのかわかりづらくてしょうがない!(;・∀・)
どちらにしても、描かれている内容や表現から、公的(=キリスト教的なもの)ではなく、私的な目的のために描かれたという点はどの解釈も一致しています。
この絵には、メディチ家の人々がモデルとされた人が一部描かれているのよ
それは、左のマーキュリーと、彼と恋に落ちようとしているエウプロシュネー。
マーキュリーは、当時もっとも勢いのあったフィレンツェの実力者、ロレンツォ・イル・マニフィコ(ロレンツォ豪華王)の弟であるジュリアーノ・デ・メディチ。
そして、エウプロシュネーは当時フィレンツェ一の美女と大評判だったシモネッタ・ヴェスプッチ。
ボッティチェリはシモネッタの大ファンだったようです。
彼女をモデルにあのヴィーナスの誕生も描いたとされていますし、ボッティチェリの作品に登場する女性の顔は、ほぼこの系統の顔。
ウフィツィ美術館には彼の絵がずらりと並んでいるから、この点に注目して鑑賞しても面白いわね