サン・ジョヴァンニ洗礼堂のモザイクは、2022年10月18日から修復中のため、見学できません(洗礼堂への入場はできるのでモザイク以外の部分は見学可)。修復は約6年ほどかかる予定です。
修復現場の見学ができます(有料ツアー)。詳細はこちら
フィレンツェのサン・ジョヴァンニ洗礼堂の天井モザイク画、6年間の修復作業へ。
フィレンツェの観光名所の中心地、ドゥオモ広場。
その一角にどーんと構える八角形の建物、それがサン・ジョヴァンニ洗礼堂です。
駆け足のツアー旅行では外観や天国の門のみを鑑賞して通り過ぎてしまうことが多いんですが、内部も実はとっても面白い!
一目見ただけで神を畏れ、敬った昔の人々の思いが伝わるモザイク画。何が描かれているのか、解説します!
*モザイク画=小さな片(石、ガラス、木など)を組み合わせて絵を表現する装飾美術の技法。
目次
洗礼堂のモザイク画、いつ、誰が作ったのか
この時代の美術作品が作られる目的は、ただひとつ。
それは
ガイド学校の先生カテリーナ
それゆえ、作者が誰であったか、いつ作ったのか、そのような情報は重視されておらず、特に記録も残されなかったことがこの時代の美術作品の詳細が伝わらない一因になっています。
ガイド学校の先生カテリーナ
サン・ジョヴァンニ洗礼堂が現在の形に建設され、奉献されたのは1059年のこと。
でも当時の内部にはまだモザイク画はありませんでした。
内部のモザイク画が描かれたのは、1225年頃~1300年頃の間と推定されています。
作者は、チマブーエ(Cimabue / 1240頃-1302)、コッポ・ディ・マルコヴァルド(Coppo di Marcovaldo / 1225頃-1276頃)、メリオーレ(Meliore / 1255頃-1285)、マエストロ・デッラ・マッダレーナ(Maestro della Maddalena)などが主要な名前として伝わっています。
※この場合の作者は、下絵となる図像を書いた人です。
ガイド学校の先生カテリーナ
でも実は、名前こそ残っていないけれど大きな役割を果たした人たちがいました。
それは、ヴェネツィアからヘルプに来てくれたガラス職人たち。
旅好きナナミちゃん
当時既に確立した技術として有名だった彼らの力を借り、フィレンツェでは他に類を見ない素晴らしいモザイク画が完成したのです。
モザイク画に表現されている内容
正面祭壇の上部「最後の審判」
サン・ジョヴァンニ洗礼堂は北側の扉から入るんですが、やはり入って最初に目を奪われるのが中央に鎮座する巨大なキリスト像。

フィレンツェ
サン・ジョヴァンニ洗礼堂
クーポラ内部のモザイク画
旅好きナナミちゃん
キリストの両サイドは3段に分けて描かれていますが、一番上はキリストの受難を示す道具を持つ天使たち。
2段目は最もキリストに近い位置に、それぞれキリストの右(向かって左)は聖母マリア、キリストの左(向かって右)は洗礼者ヨハネ。彼らに続くのは十二使徒のメンバーです。
キリストは、黄金の背景の円の中心で、こちらをしっかり見据えてその右手を上向きに、左手を下向きに指し示しています。その足元にはお墓に葬られた死者たちがそれぞれの行き先へと向かう様子。
これは「最後の審判」を行っているところ。
旅好きナナミちゃん
そう、バチカン市国のシスティーナ礼拝堂にあるミケランジェロの同じテーマの作品が有名ですね。「最後の審判」は命を終えたとき、その人生に基づいてあなたは天国へ、あなたは地獄へと振り分けられるとする、キリスト教の教えです。
ここでキリストはその右手を上に向けていますので、その先には天国が、下に向けられた左手の先には地獄が、描かれるというわけですね。
天国も地獄も、一番下の段に表されています。
ちなみにキリストの両手・両足にある黒い点は、十字架に架けられたときに釘を打たれたことを示しています。
「最後の審判」の注目ポイント
悪い子は地獄で…
やはり一番インパクトの強いのは、地獄のシーンですね。その中央でひときわ存在感をはなっているのは…

モザイクの中の悪魔
旅好きナナミちゃん
お墓から出るなり悪魔たちに追い立てられて、挙句の果てに耳からヘビが出た恐ろしい形相の悪魔に食べられる…トラウマレベルの迫力です。

地獄
旅好きナナミちゃん
地獄の片すみで罰を与えられているのは…
地獄のシーン、いちばん右下の隅っこで密かに首を吊っている人がいます。
これは、イエスの弟子のひとり、裏切者のユダ。
ユダはイエスを殺そうと企んでいた人たちに、どの人がイエスかを教え、後にその罪の呵責によって自殺したのです。
しかもキリスト教において自殺は大罪。ユダは地獄の最も奥深いところでひっそりと朽ち果てるのです。
旅好きナナミちゃん
ちなみに、これらの天国・地獄の表現は当時の人々にも大きな衝撃を与えました。
その影響を受けた一人、ダンテは「神曲」(1304-1321)を著し、その地獄編ではこの洗礼堂のモザイク画に表された世界観を文章で表現したとされています。
ダンテの『神曲』の世界へようこそ!作者ダンテ・アリギエーリとあらすじをわかりやすく解説。
そして21世紀、この「神曲」にインスピレーションを得たダン・ブラウンが「インフェルノ」を著し、映画化されたのが2016年秋。この地獄の悪魔は映画の中にも登場します。
4つの物語

洗礼堂クーポラ内部のモザイク配置図
「最後の審判(図の1)」を除く部分(図の3~6)は、4つの物語からなっています。
1、創世記
いちばん天上に近い段(図の3)は、旧約聖書より「創世記」の物語が描かれています。

創世記
聖書の最初は、神が世界に光と闇を分けられ、空と海、陸を作り、あらゆる植物と動物、そして最後に人間を作られ…というお話から始まります。
最初の人間アダムの肋骨からイブを作り、二人が神に愛されていることを嫉妬したヘビにそそのかされて、アダムとイブは禁断の知恵の実を食べてしまい、怒った神に天国から追い出され…というあのお話。

創世記~ノアの方舟
そして地上に降りた二人が働き、その子カインは弟アベルを殺してしまい(人類初の殺人)、いずれ傲慢になっていく人間たちを嘆いた神によって洪水が起こされることになり、先に教えてもらったノアは方舟を作って…というお話です。
2、聖ヨセフの物語
次の段(図の4)は旧約聖書に登場するヨセフの物語。
ヨセフはノアのずっと後の世代の人物。十二人兄弟の下から二番目でしたが、父に特に可愛がられていました。
ある時、ヨセフが自分の見た夢を父と兄弟たちに語って聞かせます。

ヨセフの物語
『私の夢の中で、皆で束を結わえていましたら、私の束が起きて立ち、あなたがたの束がその周りに集まって私の束を拝みました』
これを聞いた兄たちは当然、
『それはお前が俺たちよりも上だと言いたいのかー!!!!』
と怒ります。
怒り狂った兄弟たちはヨセフを捉えて穴に投げ込みました。
そしてその後通りかかった人たちに捕まったヨセフはエジプトに売り飛ばされ、散々な目に遭うのですが、夢占いの能力を持っていたのでいずれエジプトの王の宰相にまで出世!
時は流れ、ヨセフの夢占いのおかげで見事飢饉ききんを乗り切ったエジプト王のもとに、同じく食糧不足で苦しむカナンの地の兄弟たちが助けを求めてやってきます。

ヨセフの物語
宰相となったヨセフは、かつての兄たちの仕打ちを恨むこともせず、彼らを助けてやり、やがて年老いた父もエジプトに迎えてみんなで暮らしました。というお話。
3、聖母マリアとイエスの物語
ここから(図の5)は新約聖書のお話。

聖母マリアとイエスの物語
結婚前のマリアのところに天使がやってきて、「あなたは神の子を身ごもります」と受胎告知。以下、生まれた赤ちゃんを拝みに東方から三博士がやってきたり、ヘロデ王の虐殺から逃れるためエジプトへ逃避行したり…

イエスの物語
やがて十字架に架けられるという受難、そして復活へ。
4、洗礼者ヨハネの物語
最後の段(図の6)は救世主イエスに洗礼を施したヨハネのお話。
ガイド学校の先生カテリーナ

ヨハネの物語
ヨハネの父に天使が「あなたの妻は偉大な方を導くことになる子を産む」と受胎告知をしますが、妻と共に高齢だった父ザッカリアはそれを信じませんでした。そのため天使による罰として口がきけなくなってしまいます。だから生まれた赤ちゃんに命名するとき、「この子の名はヨハネ」と書き皆に伝えました(このあと喋れるようになりました)。

洗礼者ヨハネの物語
ハードな修行を経て、人々に洗礼を施すようになったヨハネ。その最も大事な役割は救世主イエスへの洗礼。
その大役を果たした後、弟の妻を奪って結婚していたヘロデ王を非難したことで牢屋に入れられてしまいます。
ヨハネの最期は壮絶…

洗礼者ヨハネの物語
上手に舞い踊ってヘロデ王を喜ばせた娘のサロメが、母にそそのかされ、その褒美に「ヨハネの首を盆にのせてここに持って来ていただきとうございます」と…!
そしてその言葉通り、牢屋から引き出されたヨハネは首をはねられ、サロメは満足げに母のもとに差し出したのでした。
旅好きナナミちゃん
いかがでしたか?
モザイク画、内容盛りだくさんでじっくり見るとなかなか凝った作りになっているんです。
ガイド学校の先生カテリーナ
サン・ジョヴァンニ洗礼堂はドゥオモ付属博物館・サンタ・レパラータ教会遺構との共通入場券で入れます。
早わかり!フィレンツェのドゥオモ周辺施設のチケット売り場と予約方法2023年版。
ドゥオモ、クーポラ、ジョットの鐘楼、サン・ジョヴァンニ洗礼堂、ドゥオモ付属博物館、サンタ・レパラータ教会遺構