”憂鬱な”「十字架降下」。作者ポントルモはマニエリスムの変わり者!

      2017/07/18

芸術の都フィレンツェには星の数ほど絵画や彫刻などがあります。

やっぱりメジャーで人気があるのはボッティチェリラファエロ明るく華やかな色使いの作風とか、ミケランジェロ力強くて一目でそのすごさがわかる作風とか。

私たちの現代も同じですが、昔も色々なキャラクターの人がいました。

そのうちの一人、16世紀「マリエリスム」の時代のイタリアでもひときわ異彩を放っていた画家がいました。



ヤコポ・ダ・ポントルモという画家

pontormo
こちらのヤコポ・ダ・ポントルモ(Jacopo da Pontormo)、通称ポントルモ
本名はヤコポ・カルッチ(Jacopo Carucci)といい、フィレンツェから西に35kmほど行ったエンポリという街のポントルメ(Pontorme)という地区の出身で、そこからポントルモと呼ばれるようになりました。
ガイド学校の先生 カテリーナ
彼のお父さんも画家をしていて、ミケランジェロの先生でもあったギルランダイオに弟子入りしていたみたいよ

 

しかしポントルモは5歳でお父さんを、10歳でお母さんを亡くし、孤児となってしまいました。

そんな生い立ちが関係あったせいかはわかりませんが、とにかく気難しい性格で、人の好き嫌いが激しい

 

また、日常の些細なことを日記に残すメモ魔。しかも書いていることが実に細かい

ポントルモ
昨日は仔牛の肉を食べた

とか

ポントルモ
ブロンズィーノが夕方来た

とか。

ガイド学校の先生 カテリーナ
変わり者だったし、まぁこの時代の芸術家だからそんな感じでもやっていけてたんだろうけど…もし現代に生きていたら自宅に引きこもって、一日中Twitterでつぶやいていたんじゃないかな
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ポントルモのTwitter予想図

 

何しろ、作品制作中は2階の仕事場にはしごで上り、そしてそのはしごを外してしまうので他の人が誰も近づけないという徹底ぶり。%e3%81%ab%e3%81%8b%e3%81%84

 

とにかく、「孤独」で「憂鬱」と評される変わり者だったようです。

13歳頃でフィレンツェにやってきて画家修業を始めたようで、彼の師匠として最も有名なのはアンドレア・デル・サルト

この人は「間違いを犯さない画家」と呼ばれるほど正確なデッサンと技術の持ち主でした。

ガイド学校の先生 カテリーナ
彼の作品は構図といい、デッサンといい、実に正確なバランス!
ハルピュイアの聖母 アンドレア・デル・サルト, 1517 ウフィツィ美術館, フィレンツェ

ハルピュイアの聖母
アンドレア・デル・サルト, 1517
ウフィツィ美術館, フィレンツェ

 

一方、ポントルモの弟子(友人?)として有名なのは、メディチ家のコジモ1世の宮廷画家として活躍したアニョロ・ブロンズィーノ

maestro allievo

正確な技法のアンドレア・デル・サルトと、精密な画風のブロンズィーノが直接の師弟関係ならまだわかる気もするんですが、その二人と作風があまりにも異なることからポントルモの風変りさが一層際立っています。

 

ポントルモが描く「十字架降下」

Jacopo_Pontormo-deposizione

さて、こちらの作品はポントルモの代表作、「十字架降下」という作品です。

フィレンツェで最も古い教会のひとつ、サンタ・フェリチタ教会内のカッポーニ礼拝堂にあります。

この作品を描くときも、このスペースを木の板で囲ってしまい、外から作業風景を全く見せないようにしていたんだとか…

旅好き女子ナナミちゃん
徹底してるねぇ…

さて、この絵の第一印象はどうですか?

なんか、…ちょっと不安な、心配な気持ちが起こってきませんか?笑

Azu
私は彼のこの作品を見ていると、なんとなく心細くなってきます…

 

テーマが明るい題材ではないので、仕方がないといえばそうなんですが、しかし同じ題材の他の作品と比べると、やはり彼の性格同様、色々な点が風変りです。

 

 

「十字架降下」に描かれているもの

まず、タイトルは「十字架降下」なんですが、十字架がどこにも見当たりません
なので、描かれている状況と人物から「十字架降下」であろうとされているのです。

 

 

 

それに、パッと見た瞬間に一番に目に飛び込んでくるのは、恐らく、磔から降ろされたイエスではなく、その体を抱えてしゃがみこんでいる手前の人物か、その右横のピンクの服の女性、またはその上にいる聖母マリア(青い服の女性)ではないでしょうか。

deposizione2

同じ題材を描いた描いた他の作品と比べてみると、これほどイエスの姿が強調されていない作品はとても珍しく感じます。

また、イエスと聖母の位置関係も少し変わっています。

この題材を表現するときは、多くの場合、

  • マリアは十字架から降ろされるイエスを、下から悲し気に見つめている
  • イエスの体を抱きかかえて悲しみに暮れている

という、どちらかの様子が描かれます。

しかしこの作品ではどちらにもあてはまりません。

イエスは既に十字架から降ろされた後ではあるけれど、その後ろに立って今にも倒れそうなマリアを周りの人が支える構図を取っています。

 

この画面の中には11人の人がいますが、みんなひしめき合っていてそれぞれ見ている方向が違って、違う動きをしています。

これも、統一感がなくて多分なんとなく不安感を感じさせる一因なのでしょうか。

 

そして、全体的に色使いがパステルカラーではかなげな雰囲気

それから、特に後方の人物がふわふわとまるで宙に浮いているかのよう。

一体どこに足がついているかわかりません(もしかしたら後ろに段みたいなものがあるのかもしれないけど…)。

恐らく、これらの原因が総合されるとどことなく憂鬱な雰囲気を醸し出す結果になっているような。

ちなみにこの11人の登場人物のうち、特定の人と解釈されているのは約半分です。

右端の後ろにぽつんと一人いる男性は、ポントルモの自画像とされています。
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ポントルモの作風の特徴

やはりまずはその色使い。

ガイド学校の先生 カテリーナ
このような色の使い方をイタリア語で「cangiantismo(カンジャンティズモ)」といい、玉虫色の意味を指すのよ
ガイド学校の先生 カテリーナ
この特徴は、ミケランジェロが表現に使い出したの。彼以降のマニエリスムの画家たちはこういった表現を取り入れていったのよ
トンド・ドーニ

トンド・ドーニ
ミケランジェロ・ブォナロッティ, 1507(?)頃
ウフィツィ美術館, フィレンツェ

 

そして、重力感の感じられない表現はボッティチェリから影響を受けているとされています。
彼の代表作「春(プリマヴェーラ)」などに多く登場する人物は、地面から数センチ浮いていると言われても納得してしまいそうなぐらい、軽やかに描かれています。

 

旅好き女子ナナミちゃん
えぇっっ!?ボッティチェリの絵は、もっと幸せそうなイメージなのに…
確かにそうですね。
色合いはミケランジェロ無重力感はボッティチェリから合わせるとこうなってしまうんですねぇ。

 

 

ちなみにポントルモはミケランジェロとは結構気が合ったようで、ミケランジェロが下絵を描き、ポントルモが仕上げた「ヴィーナスとアモレ」という作品がアカデミア美術館に残されています。

 

venere e amore

ヴィーナスとアモレ
ミケランジェロの素描にポントルモが仕上げ, 1533頃
アカデミア美術館, フィレンツェ

ガイド学校の先生 カテリーナ
アカデミア美術館のダヴィデくんの手前左手にあるわよ

そして、大胆な構図の取り方は15世紀ドイツの版画作者アルブレヒト・デューラーの版画作品に影響を受けたと言われています。

ガイド学校の先生 カテリーナ
それぞれの技術をしっかり取り込んで、自分の作風を確立しているところは芸術家としてとても優れていると言えるわね

他の作者による「十字架降下」

ちなみに、「十字架降下」のシーンを描いた作品は色々な作者の手によるものがたくさんあります。
パターンも色々ですが、ほんの一例をご紹介。

 

ジョット・ディ・ボンドーネ / Giotto di Bondone

deposizione di giotto

キリストの死への哀悼
ジョット・ディ・ボンドーネ, 1303-05
スクロヴェーニ礼拝堂, パドヴァ

14世紀初めにパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂に描かれたフレスコ画のうちの一つ。
左下にイエスを抱きかかえ悲しみにくれる聖母マリア。
イエスの足元にはマグダラのマリア、そして彼らを取り囲む聖人たちはみな聖母子の方向を向いており、後ろのなだらかな丘のラインや空を飛ぶ天使たちの視線も、終着点がすべて聖母子に集まるようになっていて、画面全体に統一感があります。

ベアート(フラ)・アンジェリコ / Beato (Fra’) Angelico

十字架降下

十字架降下
ベアート・アンジェリコ, 1432-24
サン・マルコ美術館, フィレンツェ

作者のベアート(フラ)・アンジェリコは「光の画家」と呼ばれる修道士。
とても敬虔なカトリック教徒で、たくさんの宗教画を残しました。
「キリストの絵画を描くものは常にキリストとともにあらねばならない」と言い、キリスト磔刑図を描くときには涙を流しながら描いていたそうです。
ポントルモと同じく、色合いはパステルカラーを多用しているにも関わらず、憂鬱ではかなげな雰囲気が少ないのは、作者の温和な性格を反映しているんでしょうか。

アニョロ・ブロンズィーノ / Agnolo Bronzino

十字架降下

十字架降下
アニョロ・ブロンズィーノ, 1545
ボザール美術館, ブザンソン

ヴェッキオ宮殿内のエレオノーラの礼拝堂のために描かれた作品。
オリジナルは神聖ローマ皇帝カール5世の書記官がとても気に入り、メディチ家のコジモ1世が彼に贈りました。現在はオリジナルはブザンソンの美術館にあり、ヴェッキオ宮殿内の礼拝堂には作者自身によるコピーが置かれています。
師匠ポントルモの作品から20年後に描かれたもので、そこから着想を得て描かれたことは間違いないと思われますが、ブロンズィーノらしい個性が、力強い肉体描写や女性のアクセサリーの緻密な描写に表れています。またポントルモと同じようにたくさんの人物が画面内にひしめきあっていますが、天使と人間で世界を上下に分けたところが、安定感につながっています。

 

作品の所蔵はサンタ・フェリチタ教会(※現在修復中)

ポントルモの作品「十字架降下」が見られるのは、フィレンツェで最も古い教会の一つ、サンタ・フェリチタ教会内のカッポーニ礼拝堂。

天井部分には弟子のブロンズィーノも手伝った4人の福音書記者、隣あう壁には同じポントルモ作の「受胎告知」があります。

 

ちょっと憂鬱な「十字架降下」同様、「受胎告知」も安定感の少ない、はかなげな雰囲気。

受胎告知 ポントルモ, 1527-28 サンタ・フェリチタ教会, フィレンツェ

受胎告知
ポントルモ, 1527-28
サンタ・フェリチタ教会, フィレンツェ

 

教会自体も街中にあるのにひっそりとした雰囲気で、ある意味ピッタリな気はします。

 

2017年4月より、この礼拝堂は修復作業に入っているため、見学できません。ただ、修復準備の様子などが移されたビデオが流されていて、どんな風に美術品の運搬・修復を行うのかを見ることができそれはそれで興味深いですよ!(修復終了日は未定)
サンタ・フェリチタ教会 / Chiesa di Santa Felicita
住所: Piazza Santa Felicita 3 – 50125 Firenze
開いている時間:月-土 9:30-12:30, 15:30-17:00
※毎週金・土の15:30-17:00は教会ガイドによるツアー(基本イタリア語)あり
◎入場無料
◎公式サイト(イタリア語、英語) http://www.santafelicitafirenze.it/

 

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この記事を書いた人
フィレンツェ在住の公認観光ガイド、Azuです。
得意ジャンルは美術、街歩き、ワイン。好きな芸術家は、ブロンズィーノ。有名作品もいいけど、隠れ注目ポイントや裏話が大好き!普通のガイドブックじゃ見つからない、”ここだけの話“をお伝えします♪ 詳しいプロフィールはこちら
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