フィレンツェ旅行の予習に最適な超おすすめ漫画、『チェーザレ・ボルジア~破壊の創造者』をご紹介します♪
15世紀末のイタリア、主にピサ・フィレンツェ・ローマを舞台に繰り広げられる歴史的史実に基づきつくられた作品。
主人公チェーザレはもちろん、お話の運び方やチェーザレを取り巻く登場人物のキャラクターも一人一人がきちんと描き分けられて魅力的で面白い上、ストーリーを楽しみながら歴史を理解できちゃうんです!
2020年にはミュージカルも公開予定。さて、それではその魅力を余すところなくお伝えします!
目次
漫画『チェーザレ・ボルジア~破壊の創造者』とは
講談社発行の雑誌『モーニング』にて連載されている歴史漫画です。
連載がスタートしたのは2005年のことですが、最新刊12巻が出たのは2019年のことと、長期間に渡って連載が続き、ピサ、フィレンツェ、ローマ、ナポリなどイタリアを中心とした舞台で話が進んでいます。
原作者は惣領冬実さん、そしてダンテ研究者の原基晶さんが監修者として加わっています。
舞台
ピサ
お話のスタートはピサ。ここには、主人公チェーザレたちの通うサエンツァ大学ピサ校があり、ここで主要な登場人物たちが次々に登場します。
ローマ
ローマはこの当時(15世紀後半)はローマ教皇領。チェーザレの父ロドリーゴ・ボルジア(後のローマ教皇アレッサンドロ6世)たちが暮らす宮殿がありました。
フィレンツェ
チェーザレたちが在籍するサピエンツァ大学ピサ校はフィレンツェ共和国の事実上の統治者ロレンツォ・デ・メディチ(ロレンツォ・イル・マニフィコ)がお金を出して設立されたものでした。
当時のフィレンツェはロレンツォ・イル・マニフィコの下、芸術的な最盛期を謳歌していました。
登場人物
チェーザレ・ボルジア

チェーザレ・ボルジア
1475年生まれ。後の教皇アレクサンデル6世となるロドリーゴ・ボルジアを父に持つ、スペイン貴族。
容姿端麗で誰もを惹きつける魅力に加え、幼い頃からスペイン語・イタリア語・ラテン語等々を話し神童と呼ばれた。
マキャヴェッリ作『君主論(Il Principe)』のモデルとしても名高い。
次男として生まれたため、聖職者の道へ進むべく育てられ、わずか8歳にして教皇庁書記長、16歳にしてパンプローナ司教という地位を与えられる。
身分の高さ・容姿端麗・頭脳明晰とどこをとっても非の打ちどころのない貴公子。ただその分、”持たざる者”の気持ちは理解しきれないことも。
ジョヴァンニ・デ・メディチ

ジョヴァンニ・デ・メディチ(後の教皇レオ10世)
1475年生まれ。15世紀後半のメディチ家の当主、ロレンツォ・デ・メディチの次男。
作中では容姿に恵まれなかったことに加えて生まれたときから大金持ちの実家育ちなので、全くもって世間知らずとして描かれる(これは、たぶん事実…笑)。
とはいえ父ロレンツォから「賢い」と評されたほどの人物で、勉学はよくし、後にローマに出て枢機卿、さらにローマ教皇にまで上り詰める人物(教皇としての即位名はレオ10世)。
史実では悪名高い「免罪符(贖宥状)」を大量発行した人物として有名。
ロドリーゴ・ボルジア

ロドリーゴ・ボルジア(後の教皇アレクサンデル6世)
1431年生まれ。ローマ教皇カリストゥス3世を叔父に持つスペイン貴族。
伝統的にかなりやり手で好色な人物として記憶されているが(愛人関係に至った女性多数)、作中ではジョヴァンニ・デ・メディチの側近アンジェロの目を通して「男気があり、周囲の人物には高評価を得ている」様子が描かれている。
実際にはかなりしたたかで根回し・世渡り上手。
ロレンツォ・デ・メディチ

ロレンツォ・イル・マニフィコ(ロレンツォ・デ・メディチ)
1449年生まれ、本作の舞台である15世紀後半のイタリア・フィレンツェ共和国の事実上の支配者。
(事実上の…というのは、一応共和制なのでただ一人が君臨する絶対君主という仕組みではないため)
金融業を生業にして栄えたメディチ家の当主で、芸術を愛し自身も哲学に造詣が深く、有名な詩なども残している。
容姿には恵まれなかったがとても外交に優れており、宿敵のナポリとミラノをともにフィレンツェとの三国同盟に参加させることに成功し、彼なくしてイタリア全体の均衡は成り立たないと言われていた。
1492年、持病の通風により死去。
ルクレツィア・ボルジア

ルクレツィア・ボルジア
チェーザレの妹、ロドリーゴ・ボルジアの娘
ロドリーゴ・ボルジアの娘で、チェーザレの妹。
とても美しく、父や兄から大変可愛がられた。
良家に生まれた宿命で政略結婚で最終的に三度、嫁がされる。
ミゲル

ミゲル(ドン・ミケロットまたはミケロット・コレッラ)
チェーザレ・ボルジアの腹心の部下。「ミゲル」とは「ミケロット」のスペイン語読み。
本名はMichelotto CorellaまたはMichelotto Coreglia、スペインのヴァレンシア出身で作中では親の顔を知らない孤児として描かれる。幼いチェーザレの遊び相手を探していた父ロドリーゴにより、ローマにいたチェーザレの元に連れて来られた(ただし実際には5歳くらい上だった可能性も…また、チェーザレとともに行動するようになったのは20歳を過ぎてからとする説もある)。
どんな時も冷静沈着で、主人であるチェーザレを守るためならためらわずに他人に手をかけるなど、どのような行動も厭わない。
そのための武術の腕前も右に出るものがいない。ジョヴァンニ・デ・メディチの側近アンジェロとは似た立場ゆえに分かり合える部分があったりする。
アンジェロ・ダ・カノッサ

アンジェロ・ダ・カノッサ
本作ではほとんどが歴史上実際に存在した人物であるが、主要な登場人物の中で唯一の架空の人物。
フィレンツェ出身の純朴な青年で、石工の祖父に育てられたので職人の世界や石細工に詳しい。また生来の頭の良さをロレンツォ・デ・メディチに見込まれ、その屋敷に出入りしていた祖父の縁でチェーザレたちと同じサピエンツァ大学ピサ校に入学することになった。
職人たちに囲まれて育ったため、宮廷の礼儀作法や世間の上下関係などに疎く、上流階級であるジョヴァンニと最初はなかなかうまくいかない…。物語の途中、あるきっかけでジョヴァンニがアンジェロに心を開くようになったことから、彼にとっても大切なキーパーソンへとなっていく。でありながら、同時にライバル関係にあるチェーザレにも一見忠誠を誓っているように見え、物語開始時の純朴な印象から話が進むごとに本人の心の中でどこまで意識しているのか、ちょっと気になる面もある。
あらすじと感想
お話のスタートはフィレンツェ人のアンジェロ・ダ・カノッサがピサにあるサピエンツァ大学ピサ校に入学するところから始まります。
彼は早くに母を失い、その父親である祖父に引き取られて育ちました。祖父は石工で工房を経営しており、アンジェロは大勢の職人に囲まれながら、メディチ家のロレンツォ・イル・マニフィコが統治する自由な空気のフィレンツェで育ったため、大らかで屈託のない性格です。

ミゲルとアンジェロのおじいちゃん
祖父の縁でメディチ当主ロレンツォの推薦をもらい、大学に入学してきたアンジェロ。世間の色々な常識や決まりごとをほぼ知らないため、メディチ家の御曹司ジョヴァンニに対して普通のフィレンツェ人なら絶対にしないような「無礼な」振る舞いを数々してしまいます。
そして成り行きでスペイン貴族の貴公子チェーザレと知り合い、彼から乗馬やスペイン語など様々な手ほどきを受けるように。

チェーザレに乗馬の手ほどきを受けるアンジェロ
生まれつき高貴な身分であったチェーザレも、自分の周りに今までいなかったタイプのアンジェロに非常に興味を持ち、可愛がります。
フィレンツェとスペインという、本来なら外国であり、時と状況によっては敵同士になってしまう二人ではありましたが、(チェーザレはともかく)アンジェロは相手に嘘や隠し事をせず誠実に向き合おうとし、またチェーザレを尊敬しその危機を救ったり、チェーザレ自身の人生では知り得ないような庶民の生活や考え方を知らしめたり…などの行動から、身分の上下はあるもののお互いに相手を尊重する関係へ。
Azu
途中、レオナルド・ダ・ヴィンチが出て来たりする回もありますが、その時にはチェーザレは少年のように謎解きに夢中になって無邪気な顔をしてみせたり、アンジェロやミゲルと一緒のときに年相応の少年らしい表情をしたりと、超絶秀才でありながらも若々しい魅力的な一面が垣間見えたりします。

レオナルドとチェーザレ
そんなチェーザレが、父ロドリーゴ・ボルジアがローマ教皇庁での権力を手中に収めるための様々な策略を手伝っていくというのがこの漫画の本筋です(そもそもチェーザレの伝記のようなものだから、当たり前と言えば当たり前ですが)。
1492年は歴史上とても大切な年。
- 1月2日、スペインのグラナダ陥落(=レコンキスタ<国土回復運動、イスラム教徒の手からスペインの地を取り戻す動き>完了)
- 4月8日、ロレンツォ・イル・マニフィコの死去(=イタリア半島におけるミラノ&フィレンツェ&ナポリの三国同盟の解消)
- 10月12日、コロンブスが新大陸を発見(=大航海時代の始まり)
という重要事件が立て続けに起こります。
現在、最新刊の12巻では②のロレンツォ死去から3か月少したった、ローマ教皇選挙(コンクラーベ)の様子が描かれています。
現在でもローマ教皇交代の際には必ず行われる選挙ですが、内部の様子を見ることは決してできませんので、細部の描写などがかなり興味深く描かれています。
Azu
- なんといっても絵柄がキレイ!
美男美女(チェーザレ&ルクレツィア兄妹)はキレイに、そうでもない人たち(メディチ家の人々)はそこそこに。というところも誠実… - チェーザレ&アンジェロ、チェーザレ&ミゲルの掛け合いが面白い!
その他の組み合わせももちろん、キャラクターが生き生きと会話するのが楽しい☆ - 登場人物の心の機微が描き分けられていて感情移入できる!
- 有名観光地がたくさん登場!しかも時代背景に忠実なので現在との違いも楽しめる!
- お話を読みながら歴史を理解できる!(ただし、複雑なので一回だとちょっと難しいかも…?)
- 主要な登場人物の他にも、ニコロ・マキャヴェッリやレオナルド・ダ・ヴィンチ、コロンブスなど聞いたことのある歴史上の有名人がちょくちょく登場して親近感(?)がわく!
他にも魅力はたくさんあるけど、まずは一度、読んでみてください♪
新刊の発売が遅いのは…
連載開始当初はコンスタントに新刊が出版されているのですが、ここ最近は新刊が出るまでに年単位で待たなければいけません…
2019年時点の最新刊は12巻、実はこれが出たのは前巻が出てからなんと4年もの月日が流れたあと!
なので『チェーザレ』の唯一の欠点は新しいお話を読めるのがいつになるのかわからないというところ。。泣
しかも最新の12巻は後半の半分は3日ぐらいしか時間が進んでいないという…笑
文学少女トモミちゃん
それはですね、時代考証をきちんと行い、各歴史的建造物や歴史上の事件をどれだけ正確に描写していることか!!というところにつきます。
例えば…
メディチ・リッカルディ宮殿
メディチ家のメンバー、ロレンツォやジョヴァンニの兄弟たちが暮らしていたメディチ・リッカルディ宮殿。

【チェーザレ~破壊の創造者】メディチ・リッカルディ宮殿中庭部分

実際のメディチ・リッカルディ宮殿中庭部分
これはチェーザレたちが生きた15世紀のフィレンツェにおける宮殿建築のスタンダードなスタイルだったんです。
また、この宮殿の外観も少し違います。
現在の姿になったのは16世紀になってから。1階部分にミケランジェロが「ひざまずいた窓」と呼ばれるスタイルの窓をデザインし、改築した結果。その工事が行われる前の姿で描かれています。
それから、建物自体の大きさにも注目。この宮殿はメディチ家が建てて後にリッカルディ家が買い取ったものなんですが(だから今はその両方の名前で呼ばれます)、リッカルディ家が後に増築したので、漫画の中ではメディチ時代のサイズで描かれています。
システィーナ礼拝堂
ヴァチカン宮殿内に建設されたこの建物は、ミケランジェロ作『最後の審判』が非常に有名ですが、天井画も含めてこの時代にはまだ装飾されていません。当時は天井には満点の星空が描かれていました。これもこの時代のスタンダード。

システィーナ礼拝堂
(左)現在の姿
(右)15世紀末の再現図【チェーザレ~破壊の創造者より】
これだけの正確性を求めようと思ったら、当時を記録する文献を膨大な数、当たらなければいけないでしょうし、しかもそれが正しいかどうかの検証も必要ですから、それは時間がかかるのも当然な気がします。
チェーザレがミュージカルに!!
明治座で2020年4月13日~5月11日
2020年4月13日~5月11日まで、東京・浜町にある劇場『明治座』にてミュージカルが上演される予定です。
主演は中川晃教(チェーザレ・ボルジア)、主要人物は宮尾俊太郎(ミゲル)、今 拓哉(ロレンツォ・イル・マニフィコ)、岡 幸二郎(ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ)、別所哲也(ロドリーゴ・ボルジア)、松田 凌(アンジェロ・ダ・カノッサ/Wキャスト)などが演じます。
脚本は荻田浩一、演出は小山ゆうな。
公式サイト
ミュージカルの公式サイトはこちらから!
参考 ミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」公式明治座チェーザレ関連スポット
漫画『チェーザレ』は基本的にイタリアを舞台として描かれていますので、それぞれの場面には見おぼえのある有名な観光地がたくさん!
イタリア旅行に来る機会があったらぜひ、物語の場面とあわせて訪れてみたいですね。
ピサ
奇跡の広場
チェーザレたちが過ごすサピエンツァ大学ピサ校があるピサ。往年の皇帝ハインリヒ7世が眠る大聖堂もある『奇跡の広場』。
ご存知、斜塔で有名なこの広場です。
飢餓の塔
2巻で出てくるダンテ『神曲』地獄篇のお話。ウゴリーノ伯爵という13世紀の人物が幽閉され、飢えをしのぐため自身の家族に手をかけ、その肉を食らったとされる場所です。が、現在はその当時の建物は現存しておらず、その場所に事件を記録する石碑がつけられているのみ。
もっともこのウゴリーノ伯爵のエピソードは実話ではないとする論文が近年、発表されています。
フィレンツェ
メディチ・リッカルディ宮殿
ロレンツォ・イル・マニフィコやその長男ピエロ、次男ジョヴァンニ、三男ジュリアーノと養子のジュリオが暮らしていた宮殿。
チェーザレもロレンツォを訪ねてここにやってくる場面が描かれています(2巻他)。

ヴェッキオ宮殿
フィレンツェの市庁舎で、建設当時から政治のシンボルという存在。
ロレンツォがスペインのレコンキスタ終結の祝祭のときに、ここからチェーザレとともに市民に手を振って挨拶する場面がありますが、ここでその病状の重さにチェーザレが気づき三国同盟の危機に気づくというエピソードが描かれています(8巻)。

ローマ
システィーナ礼拝堂
前述の通り、チェーザレたちの生きた時代は今とはかなり違う姿をしていました。
また、コンクラーベ(教皇選)の会場となる重要な場所。12巻の約半分のページでここを含むヴァチカン宮殿が描かれています。

システィーナ礼拝堂
(左)現在の姿
(右)15世紀末の再現図【チェーザレ~破壊の創造者より】
さぁ、それでは『チェーザレ・ボルジア~破壊の創造者』をしっかり読み込んで、イタリア旅行を楽しみましょう!
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