イタリアの宗教画にたくさん登場する「聖人」たち。
ところで、聖人っていったいどんな人なんでしょう?
旅好きナナミちゃん
そうですね!その通り、基本的には生前にとても(宗教的な意味で)いいことをした人が聖人として選ばれます(「列聖」と言います)。
でも、それじゃあそれは誰が選ぶんでしょう…?どんな基準で…?
たくさんの聖人がどんな人だったか、生前何をしたのか、そういったエピソードを知っていると、特に昔の西洋絵画を楽しむときにはとても役に立ちますよ!
ということで、カトリックの「聖人」のうち、有名なメンバーをご紹介します!
目次
「聖人」とは
カトリックには(※)聖母マリアや洗礼者ヨハネをはじめ、多くの「聖人(Santo)」が定められています。
※「聖人」の考え方はキリスト教でも宗派によって違います。特にプロテスタントではすべての信者を「聖徒」と呼び特定の人物を尊敬・崇拝することがないので、聖人と呼ばれる人物はいません。
「聖人」の人数
この「聖人」、いったいどのくらいいると思いますか?
旅好きナナミちゃん
実は現在、10,000人ほど(!)が聖人認定されています。
旅好きナナミちゃん
意外に多かったですね!
「聖人」になるには
「聖人」とは、カトリック信者のうち、伝説になるほどの非常に敬虔で他の信者の模範になるべき人物。
ものすごく簡単に言うと、とても信心深くて尊敬される行動をした人のこと。
多くは聖書に登場する人物、またキリスト教が公認される以前に異教を信じたと咎められて殉教した人物、それからカトリックを世に広めるのに貢献した人物などが選ばれています。
こんな感じの偉大な人物から、それって…聖人?となる人まで、たくさんの聖人が認定されています。
最近ではマザー・テレサ(1910-1997)や先々代ローマ教皇のヨハネ・パウロ2世(1920-2005)が列聖(聖人に認定されること)されました。
旅好きナナミちゃん
聖人に認定されるためには、その前に「福者(Beato)」に認定される必要があり、これには
- 殉教者であった
- 生前に奇跡を起こした(人の傷や病気を医学によらず治した)
などの功績があったことが必要です。つまり、いずれにしても亡くなった後に認定されるものなんですね。
以前はこの「福者」に認定されたあとさらに一定期間を経て、奇跡を2度以上起こした人を聖人と認定していたのですが、ローマ教皇がヨハネ・パウロ2世(在位1978-2005)の時代にこの手続きを簡略化しもっと早く聖人と認定されるようになりました。
ただし今でも「福者」に認定され、かつ2度以上の奇跡を起こしたと認められることが必須です。
だから順番としては
- 素晴らしい行いをする、奇跡を起こす
- 死後、福者に認定される
- さらに2度以上の奇跡を起こす
- 聖人に認定される
という段階を踏むことになるわけです。
カトリック世界での序列はこんなイメージですね。
旅好きナナミちゃん
多いのは長らく病気を患っていた人が、その人に深く祈ると病気が治癒した(医学的理由によらず)、というものです。
例えば「サン・ロレンツォ」→「聖ロレンツォ」、「サンタ・クローチェ」→「聖なる十字架」、「サント・スピリト」→「聖霊」など…
美術作品に登場する「聖人」たち
先ほどお話ししたように、カトリックの聖人は10,000人ほどもいますので、そのすべてを覚えるのは大変です。
ですが、美術作品に出て来る人物や、エピソードとして出て来る人物は有名な人が多いので、ザックリとどんな人なのか知っておくと面白いかもしれません。
各聖人はその生涯の出来事にちなんだシンボル(「持物 / アトリビュート」といいます)とともに描かれることが多いので、これを知っていると誰が描かれているのかわかって絵の意味や場面がわかったりしますよ!
聖母マリア(Madonna, Santa Maria, Vergine)
シンボルカラーは青いマント(マントの下は赤またはピンクの服)。
洗礼者ヨハネ(San Giovanni Battista)
アトリビュートはらくだの毛皮(ボロボロの服)と十字架。
このヨハネの最期のエピソードを基に書かれたのが、オスカー・ワイルド作の戯曲『サロメ』です。
そしてこれを基にしたシュトラウス作のオペラも。
イエスの一番弟子ピエトロ(ペテロ)(San Pietro)
ここからアトリビュートは鍵。片方の手に大きな鍵を持っている。
福音書記者マタイ(San Matteo)
もとは収税人という税を取り立てる仕事についており、この仕事は当時人々から嫌われていた。仕事中にイエスについてくるよう促され、弟子となった。
シンボルは天使。
福音書記者マルコ(San Marco)
シンボルはライオン。ヴェネツィア共和国(当時)の国旗は翼の生えたライオンが聖書を支えているデザイン。
福音書記者ルカ(San Luca)
シンボルは牛。
福音書記者ヨハネ(San Giovanni Evangelista)
シンボルは鷹。
マグダラのマリア(Maria Maddalena)
もと罪深い女性だったが、イエスに体の中から7つの悪霊を追い出してもらい改悛。詳しくはこちらの記事へ。
長い髪を油に浸してイエスの足を洗ったというエピソードから、アトリビュートは香油壺、長い髪。
ドナテッロやティツィアーノをはじめ、たくさんの芸術家が彼女をモチーフに作品を作っている。
ドナテッロ晩年の作品「マグダラのマリア」彼は何を伝えたかったのか? ティツィアーノが「マグダラのマリア」を描くとこうなる。
最初の殉教者ステファノ(Santo Stefano)
イエスの死後最初の殉教者。不思議な力と恵みに満ちて、人々にしるし(奇跡など)を行っていたが、これをよく思わない人々にそそのかされた民衆などによって捉えられ、最高法院に引き渡される。
その顔は天使のようだったが、人々の正しくない言動を批判したため、怒った人々から石を投げつけられて死に至った。
このため、アトリビュートは石。頭に石がささって血を流しているか、手に石を持っている。
アッシジのフランチェスコ(San Francesco d’Assisi)
12~13世紀に実在した人物。裕福な家に生まれながらもある日神の啓示を受けたことによって、教会を立て直し、自分の富を貧しい人に分け与た。それによって実家から勘当されてしまうが、清貧をモットーとして、生涯ボロボロの僧衣のみに裸足というスタイルで過ごし、神に仕え続けた。また彼が説く神の教えは小鳥たちまでが集まってそれに耳を傾けたとも言われる。
現在でも大きな宗派のひとつである、フランシスコ(フランチェスコ)会の創始者。
アトリビュートは茶色(またはグレー)の僧衣に白い腰ひも、足は裸足。後頭部を剃った髪型。
アレクサンドリアのカテリーナ(Santa Caterina d’Alessandria)
彼女の色々な行動に怒ったローマ皇帝は、刃がついた車輪で殺すことにした。カテリーナが神に祈ると天使がその刑具を破壊し、吹き飛んだ破片で逆に異教徒たちがたくさん亡くなった。最終的には斬首され、イエスのもとへと昇った。
アトリビュートは、刃の付いた車輪。
殉教者ロレンツォ(San Lorenzo)
ここから、アトリビュートは網。
聖人とアトリビュート、その他美術との関連についてのおすすめ本
聖人に捧げられたオンニッサンティ教会
これらの「諸聖人=Ogni santi」に捧げられた教会が、「Ognissanti教会」。
フィレンツェを含め、いくつかの街にあります。
フィレンツェのオンニッサンティ教会。ジョット、ボッティチェリ、ギルランダイオ…豪華作品の競演!
また、イタリアでは11月1日が「諸聖人の祝日」として、国の休日です。
イタリアの祝日一覧&カレンダー2024年版!観光のプランニングはこれでOK!
翌11月2日は伝統的に「死者の日」といってお墓参りの日(お休みではありません)。
ちなみに前日の10月31日、日本でもコスプレ大会と化しているハロウィンのお祭りは、もともとはこの諸聖人の祝日の前夜(イヴ)を祝うための「Hallow Eve」だったのが、後になまって「Halloween」と呼ばれるようになったものなんですって。
Azu