フィレンツェのシンボル、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(ドゥオモ)の正面には、サン・ジョヴァンニ洗礼堂があります。
こちらもドゥオモと同じくらい宗教的に意義があり、フィレンツェ人が大切にしてきた建物。
地元の大理石を使った、完璧な八角形の美しい建物。有名な「天国の門」だけじゃない注目ポイント、見どころぜんぶ解説します!
目次
「洗礼堂」とは
洗礼堂とは、「洗礼を受けるためのお堂、場所」のことです。
では洗礼とは?
キリスト教徒になります、っていう儀式のことだよね
はい、その通りです!
実はカトリックの考え方では、人間は誰しも生まれながらにして罪を背負っていると考えられています。
えっ…生まれたばかりの赤ちゃんなんて、純真無垢なのに…
意外ですよね!この考え方は旧約聖書から始まります。
旧約聖書の最初の登場人物は、ご存知、アダムとイブ。彼らの登場する「創世記」というお話の始まりは、大体こんな感じです。
アダムとイブは神の手によって作られた最初の人間で、神から愛され、何一つ不自由なく楽園で暮らしていた。しかし、ある時、ヘビが二人をそそのかして禁じられていた知恵の実をイブに食べるよう仕向けた。その実がとても美味しかったので、イブはアダムにもすすめてアダムもそれを口にしてしまった。
すると二人は自分たちが裸であることに気づき、「恥ずかしい」という感情を覚えてイチジクの葉で体を隠し、それにより神は、二人がいいつけを破って知恵の実を食べてしまったことに気づき、二人は楽園から追放されてしまった。
この、二人が犯してしまった過ちのことを「原罪」といい、それをゆるしてもらうために、洗礼を受けるとされています。
教会は神の家という位置づけなので、そこに穢(けが)れた存在が入ってはいけない。なので、信者として教会に入るためには、洗礼を受けることが必要であり、カトリックの家庭に生まれた赤ちゃんは、洗礼を受けて神の子として新たに生まれる儀式を受けることになります。
洗礼堂の内部には儀式で使用する水を入れるための洗礼盆が設置されます(※)。小さな町の教会では別に洗礼堂を建てず、教会内部の一角(通常最も入り口に近い場所)に洗礼室が設けられていることがあります。
※フィレンツェのサン・ジョヴァンニ洗礼堂は、1945年頃、洗礼堂としての役割を終えました。
フィレンツェのサン・ジョヴァンニ洗礼堂
フィレンツェのサン・ジョヴァンニ洗礼堂は、実はこの広場の中で最も古い建物。
その前身は、5~6世紀ごろには既にあったとされていて、洗礼堂内部の地下部分にはこの時代のものとされるモザイク装飾の床が見えます。
1059年に、現在の八角形の形・大きさに建て替えられて大聖堂として奉献されました。
サン・ジョヴァンニ洗礼堂の外観は典型的なロマネスク様式の建築で、直線と半円で構成された、繰り返される幾何学模様が特徴です。
この頃に建てられた建物は、このような幾何学模様がよく使われています。
同時代の建物はこんな感じ。
建材として使われているのは、地元トスカーナ産の白と緑の大理石。白は、カッラーラという海沿いの街で、質の良い大理石産地として有名です。
あの大天才・ミケランジェロはここの大理石をとても気に入っていて、ローマに移ってからもわざわざそれを取り寄せて使っていたんだ!!OK?
緑は、プラートというフィレンツェから西に25kmほどにある町の特産品で、天然の色です。プラートは銘菓カントゥッチーニ発祥の地で、有名なアントニオ・マッテイのお店がありますよ。
実はこの色の組み合わせ、白や緑にはカトリック的にそれぞれ意味があります。
詳しくはこちらの記事
フィレンツェ人の誇り、美しきドゥオモのファサード。壮大な歴史と意味を徹底解説!ところで、洗礼堂はなぜ八角形なんでしょうか?
えっ、うーん、なんでだろう…理由があるの??
実はこれも旧約聖書の「創世記」に関係があります。
旧約聖書によると、神は世界を6日かけて造られ、最後の一日を休息日とされました。8という数字は、その1クールである7日が終わってまた最初に戻る大事な日。
これは、イエスの復活と新しい人生を表すと考えられています。
だから教会関係の建築物で中世以前の建築物では、よく八角形が採用されています。
サン・ジョヴァンニ洗礼堂の見どころ
サン・ジョヴァンニ洗礼堂はこんな形をしています。
以下、外観の扉はすべてレプリカになっており、オリジナルはドゥオモ付属博物館に保存されています。
見どころ①南扉<アンドレア・ピサーノ作、1329-36>
南扉は、14世紀の芸術家、アンドレア・ピサーノ作。
テーマは洗礼者ヨハネの生涯と、3対神徳(信仰、希望、愛)と4枢要徳(勇気、節制、正義、知恵)+「謙虚」がそれぞれ擬人化されています。
アンドレア・ピサーノはジョットを崇拝してたから、その技法やスタイルをたくさん取り入れてるんだ!OK?
見どころ②北扉<ロレンツォ・ギベルティ作、1403-1424>
先に完成していた南扉の様式を受け継いで作られた扉。
作者を選ぶために開かれたコンクール(1401年)では、優勝者ギベルティと対戦相手ブルネレスキの接戦だったといいます。そして二人は因縁の関係に。
テーマはイエスの生涯と、4人の福音書記者と4人の教父。
この扉について、詳しくはこちら
フィレンツェの洗礼堂、北扉に秘められた因縁の対決とは!?見どころ③東扉<ロレンツォ・ギベルティ作、1425-1452>
ミケランジェロでさえも「天国の門」と呼んで称賛したとされる、美しい門。
北扉を完成させたギベルティに、そのあまりの美しさに感動したフィレンツェ市民たちがぜひこの扉も!!と依頼しました。
彼の代表作として称えられていますが、ドナテッロやパオロ・ウッチェッロなど、当時著名だった芸術家たちがたくさんヘルプしたと伝えられています。
3Dのような、飛び出す遠近法がまったくもって見事!!これのおかげで1枚の絵に見えるけど、3~4場面が同時に表現されているんだ!!OK?
テーマは旧約聖書の物語。
この扉について、詳しくはこちら
ミケランジェロも惚れた!「天国の門」と呼ばれる極上の扉、フィレンツェの洗礼堂にあります。見どころ④内部のモザイク※2023年より修復中につき見学不可
中に入ってみると、天井クーポラのモザイクのあまりの豪華さに圧倒されます。これらは1270年から1300年頃の作品で、複数の作者の手によるとされています。
ジョットの師匠、チマブーエも参加していたんだよ!!
主祭壇の真上(西側)の面は中央に最後の審判を行う大きなキリスト、その両側を天使や聖人が取り囲み、キリストの左手(向かって右側)の下の方には恐ろしい地獄が表現されています。その他の面は、上から順に創世記、ユダヤのヨセフの物語、マリアとイエスの物語、洗礼者ヨハネの物語となっています。
すごい地獄が恐ろしい表現だねぇ…絶対、行きたくないなぁ…
見どころ⑤内部の芸術作品
多くの芸術品がかつて洗礼堂内にありましたが、ほとんどが現在はドゥオモ付属博物館に保存されています。
ドゥオモ、クーポラ、ジョットの鐘楼、サン・ジョヴァンニ洗礼堂、ドゥオモ付属博物館、サンタ・レパラータ教会遺構それぞれ、どの場所にどの作品があったのか、想像しながら鑑賞してみるというのも面白いですね。
現在も内部に残っている作品は、ドナテッロとミケロッツォの共同作の「対立教皇ヨハネス23世の墓」や、床の象嵌細工があります。また、東扉の前にある十二星座宮をかたどったホロスコープは、もともとは北扉の前にあったもので、かつては日時計として機能していました。現在でも同じスタイルの現役の日時計が、サン・ミニアート・アル・モンテ教会では見られます。
サン・ミニアート・アル・モンテ教会サン・ジョヴァンニ洗礼堂にまつわる小話
フィレンツェの中でも、この洗礼堂は歴史の古い建物なので、その周辺では色々な事件が起こってきました。
知らないと絶対見過ごしてしまう、こんなものたちにも、実は秘密のストーリーが隠されていますよ。
小話①天国の門の両隣にある錆びた柱は…?
ついつい、天国の門に夢中になってしまって、ここに目が行かないけど、引きでみるとなんだか白と緑の美しい調和のとれた洗礼堂の中に、似つかわしくない錆びた2本の柱(しかも片方は欠けてる)が…?
その秘密はこちら
小話②北扉の前にある十字架付きの柱は…?
こちらも、広場に到着するやいなや洗礼堂やドゥオモに目を奪われてしまって、存在そのものすら気づきにくいんです。
が、1384年に建造されたこの柱、実はこんな奇跡のお話に基づいて建てられたもの。今でも記念日1月26日には足元にお花が置かれます。
その奇跡とはこちら
1月26日、聖ザノビの日。その奇跡の伝説にまつわる歴史行事。