フィレンツェの最も古くて美しい橋、ヴェッキオ橋は珍しい二階建ての橋。この上の部分は、長い通路で実は美術館の一部となっています。
2016年から長らく修復作業のため閉鎖されていましたが、8年越しで再オープンしました!新生ヴァザーリの回廊は在りし日のメディチ家の生活を思いながら空中散歩できる、唯一無二の空間になっています。
目次
『ヴァザーリの回廊』とは
16世紀を代表するマルチ芸術家ヴァザーリの代表作
『ヴァザーリの回廊』とは、その設計者であるジョルジョ・ヴァザーリの名を冠する全長1kmの長い廊下。
ヴァザーリは、美術史において最重要人物の一人と言ってもいいほど、大切な人。そうそうたる彼の功績の一部を挙げてみるとこんな感じです。
- 『芸術家列伝(画家・彫刻家・建築家列伝)』(当時代以前の芸術家についての詳細な伝記)の執筆
- ヴェッキオ宮殿の内部装飾のプロジェクト
『五百人広間』の装飾プログラム、『フランチェスコ1世の書斎(ストゥディオーロ)』設計および装飾、『四元素の区画』装飾プログラムおよびフレスコ画装飾 など - ウフィツィ美術館の設計
- フィレンツェのドゥオモ内部クーポラのフレスコ画『最後の審判(一部)』
- サンタ・クローチェ聖堂のミケランジェロの墓碑モニュメント
- 美術アカデミー「Accademia delle arti del disegno(アカデミア・デッレ・アルティ・デル・ディゼンニョ)」の創立
…などなど、そしてさらに画家としての功績も多数あり。とにかく仕事が速く、多方面の才能を持つ人で、メディチ家のコジモ1世に仕えるようになってから上記の数々のプロジェクトの多くを同時進行でこなしています。
そして『ヴァザーリの回廊』はそんな16世紀を代表するマルチ芸術家ジョルジョ・ヴァザーリの最も大切な仕事の一つなんです。
仕事場と住居を結ぶ便利な回廊
さて、回廊の全体図はこんな感じ。ヴェッキオ宮殿からウフィツィ美術館を抜けて、アルノ川に架かるヴェッキオ橋の上を通り、アルノ川の南側のピッティ宮殿まで到達することのできる全長1km(ピッティ宮殿~ウフィツィ美術館までは760m)の長ーい廊下です。

もともと、ヴェッキオ宮殿は歴史的に政治的権力の象徴だった建物だったので、コジモ1世がメディチ・リッカルディ宮殿から住居を移し、そこに隣接するウフィツィ美術館はコジモ1世が仕事しやすいようにと作られた建物でした。

「Uffizi」とは、英語だと「オフィス」のこと。つまり、もともと事務所として構想された建物だったわけね~
ピッティ宮殿は、メディチ家のライバルだったピッティ家が15世紀に建てたものですが、体の弱かったコジモ1世の妻、エレオノーラ・ディ・トレドが健康的に暮らせるよう、16世紀に購入した建物です。


エレオノーラは結核を患っていたので空気のきれいでない街中のヴェッキオ宮殿は身体によくなかったのよ~それにナポリの明るい宮廷育ちの彼女には、窓の少ないこの宮殿はあまりお気に召さなかったのよね~

あと、彼らの間にはたくさんの子どもたちが生まれたのだけど、(時代的な要因はあるにせよ)成人に至らなかった子どもも多かったの。それについても、エレオノーラはフィレンツェの街中の「不健康な」環境がよくなかったから、と考えたと言われているわ~
そういうわけで、新しいお家(ピッティ宮殿)から仕事場(現ウフィツィ美術館)までを結ぶ通路を作ってしまおう!というアイデアが生まれたのです。
この通路は途中にある建物の内部をつっきって、教会の前の部分を横切り、橋の上に2階部分を増築して作られています。

地上を歩かなくてもいいので雨にも濡れないし、暗殺者に命を狙われる心配もなし!こっそり市井の様子をうかがい知ることもできる!…と、メディチ家の面々にとってはなんともいいことづくめの廊下だったんです。
この回廊を作る前は、ヴェッキオ橋は狭いし人が多いしで馬車で通れなかったので、わざわざ一つ西のサンタ・トリニタ橋を迂回して川の南北を行き来しなければならなかったのも不便だったのでしょう。

それにしても、こんな長い廊下を作っちゃおう!て思いついちゃうところが、さすがメディチ家…
そしてアイデアだけでなく、実現できる財力もさすが、というべきですね。
トスカーナ大公の跡継ぎの結婚式のために作られた
実はこの回廊、アイデア自体は上記の通り仕事場と住居を結ぶ通路だったんですが、名目としてはコジモ1世の長男で跡継ぎのフランチェスコ1世と、ジョヴァンナ・ダウストリアの結婚を機に作られました。

というのも、このお嫁さん、ジョヴァンナ・ダウストリアは名門ハプスブルク出身で、時の神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世の妹。これまでフィレンツェの名家やローマの貴族、ナポリ副王などからお嫁さんをもらって、少しずつ家の格を上げてきたメディチ家ですが、皇帝の親族となると別格も別格!

当時の神聖ローマ皇帝といえば、ヨーロッパ随一の大宮廷!そんな皇帝家からお嫁さんをお迎えするとあって、メディチ家当主のコジモ1世は家の財力を披露するためにものすごく気合を入れて準備したのよ~
皇帝家からお輿入れするジョヴァンナを迎える、豪華壮麗な結婚式を演出するため、このヴァザーリの回廊に加え、ヴェッキオ宮殿の五百人広間の装飾や第一の回廊のフレスコ画装飾、そしてヴェッキオ宮殿前の『ネプチューンの噴水』などが突貫工事で仕上げられました。

というわけで、1565年3月に開始された回廊の工事は、同年12月18日の結婚式のまさに前日、12月17日に仕上がったのでした。

前日…!!なんてギリギリな…この辺はいまのイタリア気質とあまり変わってない気がする…笑
橋の上の店はジュエリー店に総入れ替え
実はこの廊下を一番愛用したのは、結婚式のために作ってもらったフランチェスコ1世ではなく、その弟で次代トスカーナ大公のフェルディナンド1世でした。
ところで当時、ヴェッキオ橋の上に並んでいたお店はいまと違ってお肉屋さんやお魚屋さんのような庶民の生活に結び付いた商店でした。
でも、フェルディナンド1世にはこれがお気に召しませんでした。なぜなら…

せっかく誰にも邪魔されずに景色を楽しめながら通れる便利な通路!なのに、なのに、…ニオイが…!泣
そう、橋の上にお肉屋さんやお魚屋さん…致し方ないことですが、どうしても生の食品を扱うし、食用に加工したそれらの要らない部分を当時は川に投げ捨てていたので、ニオイが発生してしまいます。
このニオイに我慢ならなかったフェルディナンド1世、ついに橋の上のお店を強制退去させてしまいました。
そして…

殿下、空き家となったこれらの場所はいかがいたしましょう?

そうだな…、余の愛する貴金属細工でいっぱいにしよう!橋の上が金銀で輝く、気品溢れる良き世界じゃ…
そういうわけで、ヴェッキオ橋の上のお店はすべて貴金属細工を扱う店に。そして今でもこの橋はその姿の美しさと橋の上のきらびやかさから、別名「ゴールデンブリッジ」と呼ばれています。

かつては自画像コレクションが展示されていた
この『ヴァザーリの回廊』には、1973年から2016年の閉鎖前では自画像コレクションが展示されていました。これは17世紀のトスカーナ大公フェルディナンド2世の末弟、枢機卿Leopoldo de’ Mediciが集めたコレクションを基とする、16世紀以降の芸術家の自画像を中心とする膨大なコレクションです。シャガールなど、近年の作家の自画像もあります。
これらのコレクションは今回の工事に伴ってウフィツィ美術館内に移設されました。現在、2F部分に設置されています。


ここには、
- メディチ家ともつながりの深いピーテル・パウル・ルーベンス
- オランダを代表するバロック画家レンブラント
- マリー・アントワネットのお抱え肖像画家エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン
- 新古典主義の彫刻家アントニオ・カノーヴァ
- バロック絵画を代表するルカ・ジョルダーノ
- スペインの代表的な画家ディエゴ・ベラスケス
…などなど、さまざまな時代・地域の芸術家の自画像がずらーり!!とっても見ごたえあるわよ~
2016年から安全を確保するための緊急工事
さて、そんな『ヴァザーリの回廊』ですが、2016年から閉鎖されていました。
この廊下、上述のようにとても長い通路なんですが、実は入り口と出口しかなかったんです。つまり、何かあったときの緊急避難口が全くなく、なおかつ空調システムがありませんでした。あと、ユニヴァーサルデザインにもなっていなかったので、車いす利用などの入場者には入ることのできない場所だったんです。
上記に加え、古い建物であることから防火上の懸念があること、さらに構造上の弱さなども消防から指摘されたため、これらの弱点を改善するための緊急工事が決定されました。
フィレンツェだけでなく、近隣の県や建築家や修復士など専門家の協力の元、18カ月にわたる調査・研究を経て、プロジェクトが立ち上がりました。当初の予定では2年ほどで再オープン(2018年頃の予定)、…という話でしたが、資金難だったり、Covid19があったり、…と様々な事情で再開は延期され続けました。何度も「今度こそ開くかも…!」と期待させられました…詳しくはこちらに。
また、延期の理由のひとつにはこの工事の間に思いがけない発見があったことも。長い歴史の中で恐らく改築や修復が何度か行われてきた回廊ですが、今回の工事ではヴァザーリの建築当時のオリジナルの床や、1500年代の建築物の一部が発見されたそうです。
この歴史上の貴重な発見とその保護・展示のため、プロジェクトの見直しも必要となり、また工事期間が延長されることになりました。
嬉しい発見の反面、またお金が必要になり…、というイタリアあるあるですね!
新生・ヴァザーリの回廊はこんな様子に
内部のコース
新生ヴァザーリの回廊では、エレベーターやスロープも備えられ、ハンディキャップのある人でもアクセスできるように。また、内部にはトイレや空調システムも整備され、さらに改装工事の原因となった非常口についても追加設置されました。
回廊へのアクセスは、ウフィツィ美術館側から。

ウフィツィ美術館側では建物西側の棟の2F部分に集合し、回廊内部へ。安全上の理由から一度に入場できる最大人数は時間枠ごとに25人までと制限されています。
順路は一方通行で、出口はボーボリ庭園の『ブォンタレンティの洞窟』横になります(ボーボリ庭園とピッティ宮殿内へのアクセスは別のチケットが必要になります。)。所要時間はだいたい30~40分前後です。

さらに、展示作品保護のためこれまでふさがれていた73の窓が、外を見ることができるように“復活”しました!これにより、まさに空中散歩を楽しむことができますね!

回廊内部の通路には、基本的にほとんど展示がありません。消防法上の制限で、燃えやすい絵画作品の展示はなくなり、古代彫刻作品がいくつか展示されています。

チケット情報
新生『ヴァザーリの回廊』では、ウフィツィ美術館の内部見学とセットで43ユーロ。詳細はこちらに!
ハイシーズンのウフィツィ美術館のチケットが29ユーロなので、回廊部分は14ユーロという計算ですかね。
決して安いとは言えないチケット料金ですが…、

でもフィレンツェの街を空中散歩…!貴重な機会だし、行ってみたーい!

フィレンツェガイド
Azu
イタリア政府公認観光ガイド。 得意ジャンルは美術、街歩き、ワイン。好きな芸術家は、ブロンズィーノとドナテッロ。有名作品もいいけど、隠れ注目ポイントや裏話が大好き!普通のガイドブックじゃ見つからない、”ここだけの話”をお伝えします♪

