多くのイタリア人が一年で一番楽しみにしているイベント、クリスマス!
本来、救世主イエスの生誕を祝う宗教行事ではありますが、現代のほとんどのイタリア人にとっては家族で集まって楽しく食事をする大事なイベント。
カップルで過ごす日ではなく、家族や親せきと過ごす日なので、日本のお正月とイメージが近いですね!
そして、イタリアと言えば『マンジャーレ・カンターレ・アモーレ(食べて・歌って・恋をして)』が有名なお国柄、食べることが大好きで何よりも大事!なファミリーも多いです。
ということで、家族が揃うにぎやかな食卓に欠かせない、イタリアのクリスマスならではのお菓子をご紹介します。
目次
イタリアのクリスマス菓子とは?
イタリア人にとって食べることはすなわち生きること、食文化が非常に豊かな国で、北から南までそれぞれの地域でそれぞれの伝統的な料理を普段から食しています。
クリスマスのお料理についても例外ではなく、地域ごとに様々な伝統料理が食卓に並びます。
食後のデザートももちろん、個性豊か。近年では特に、ロンバルディア発祥のパネットーネやヴェネト発祥のパンドーロなどが全国的に定番となっていますが、その他にも地域に伝わる色々なお菓子がこの時期になるとパスティッチェリア(ケーキ屋さん)、パン屋さん、スーパーなどに並びます。

個人的な体感ですが…人気のお菓子ランキングはこんな感じ?

ふわふわ食感でクセがなく、子どもから大人まで大人気!

伝統的なタイプだと好き嫌いが分かれますが、最近は色々な味が出ています
では、それぞれの特徴、そしてその他のクリスマスのお菓子を、ご紹介します!
イタリア伝統のクリスマス菓子①パネットーネ

パネットーネとは
クリスマス時期のイタリアを代表するお菓子で、ミラノが発祥です。

とはいっても、現在はイタリア全国津々浦々、北はトリノから南はシチリアに至るまで各地でクリスマスのお菓子と言えば名前が挙がる存在です!
名前の意味は直訳すると『大きなパン』(名前の起源は諸説あり)、ゆえに(?)大きさはなかなかのもので、一般的に直径が25~30cmぐらい、高さが10~15cmぐらいのドーム型で、1kgが標準サイズといったところ。お店によっては直径10cmぐらいのミニミニサイズもあります。
マニトバ粉という強力粉の一種、卵、砂糖、バターをベースとした生地にレーズンや砂糖漬けのフルーツなどを入れて作られます。長い発酵時間や弾力のある強い生地の扱いが必要だったりなど、なかなか簡単に作れるお菓子ではないので、普通は一般家庭では作らず買ってきます。

どちらかというとパン職人さん(またはケーキ屋さん)が本職だと思うので、レストランのデザートでも『自家製パネットーネ』って見たことない気がします!
生地もパンのような弾力があって食べ応えがあります!

そのままでももちろん、マスカルポーネのクリームやカスタードクリームをはさんでもとても美味しいでーす
伝統的なタイプだとレーズンやフルーツなどが入っているからか、特に子どもにはちょっと人気がなさめ…。だからなのか??、最近はケーキ屋さんを中心にチョコレート入り、洋梨やイチゴやオレンジなどのフルーツ(砂糖漬けではない)やマロングラッセ入り、ラム酒入り、ホワイトチョコレートがたっぷりかかったもの…など色々なバリエーションが売られています!
ハロウィンが終わるかどうか…の10月下旬頃からスーパーでは店頭に出始め(こちらは大手メーカー製品)、もう少し本格的なパスティッチェリアの手作り品は11月半ば以降、徐々に出てきます。

パネットーネの発祥
この有名な伝統菓子、実はその発祥についてはほとんど知られていません。起源は古いものではありますが、いつ頃生まれたのかはわからず、確実なのは中世には既にクリスマスのために準備するものとして存在していたということ。ただ、現在の形になったのは1920年代のことだそうで、その昔の姿は今とは全く異なるものだったようです。
本当に伝説が数多あり、それぞれに好きなものを採用している…といったところなので、ここではそのうちの一つをご紹介。
時は15世紀後半、ミラノの事実上の支配者がLudovico il Moro(Ludovico Maria Sforza)だった頃のこと。

近隣の有力貴族などを多数招いたクリスマスの盛大な昼食会の準備を担当していた料理人が、その日のデザートをオーブンの中に入れたことをすっかり忘れてしまい、それは焼け焦げのようになってしまっていました。
すっかり落ち込んでしまったシェフを見て、下働きのToniが言いました。「実は今朝、食糧庫に残っていた小麦粉、バター、卵、シトラスの皮とレーズンを使ってこのデザートを作ったんです。もし他に解決策がないようなら、これをお出しするのはどうでしょうか」シェフは同意してこれを提供し、震えながら広間のカーテンの後ろから招待客の反応を伺いました…
…彼らはみな、このデザートに夢中になり、スフォルツァ公からこの極上の品の名前を聞き出そうとしていました。
そしてシェフは言いました。「こちらはpan dal Tögn(=トーンのパン)と申します」それからこの一品の名は”Pane di Tögn“、転じて”panettone“となったのです。
クリスマスの昼食ではなく前夜の夕食であったり、朝に作っておいたものではなくその場でトニが機転をきかせて即席で作ったものだったりとバージョン違いが色々ありますが、大筋はこんな感じで、このエピソードが恐らく一番有名です。
イタリア伝統のクリスマス菓子②パンドーロ
パンドーロとは
パンドーロは、ロミオとジュリエットで有名なヴェネト州のヴェローナという町の名物ですが、上記のパネットーネと同じく、今やイタリア全国どこでもクリスマスと言えばこれ!という代表的なお菓子です。

パネットーネと同じくそこそこの大きさがあって、スタンダードな大きさは750g、パネットーネよりやや高さがあって15~20cmぐらい。
主な材料は小麦粉・砂糖・卵・バターというシンプルなもので、ふわふわの巨大なスポンジケーキのような感じです。その名も直訳すると『黄金のパン』!

たっぷりと卵を使うので、中が黄色みの強い生地に仕上がるからだと思いまーす
パンドーロは上から見ると8つの頂点がある星形をしていて、横に切ると断面が星のようになるのでとても可愛らしいです!
普通、買ったときに粉砂糖が一袋ついてくるのでそれを袋に一緒に入れてシャカシャカして全体にまぶして食べます。これはイタリアの北側にあるアルプスに雪が積もった様子をイメージしているという話も。

甘いのでそのままでも十分ですが、食べ方は個々のお好みで、マスカルポーネのクリームや生クリームを載せたり、ヌテッラなどのチョコレートを塗ったり、フルーツと一緒に…などいろいろ。
基本的には甘いお菓子ですが、ロンバルディア州パヴィア近くの一部地域では、横に何段か切ったパンドーロにサラミや生ハムなどをはさんで前菜としてクリスマスの食卓に並ぶところがあるようです。
↑この人は別の地域ですが、イメージはこんな感じ。
パンドーロの発祥
パンドーロのもととなる食べ物は、ヴェネツィア共和国の支配下であったヴェローナで生まれた古いもので、その歴史は数世紀前に遡ります。
パンドーロ(=黄金のパン)の名前は、ルネサンス期に特別な機会のデザートには金箔でデコレーションを施し、その高級さや優雅さを演出していたというところから来ているという説も。そしてこの時代の特別な機会の食事、といえばそれはやはりクリスマス。ということでクリスマスのお菓子として定着してきたのですね。
15世紀には現在のものと大体同じような方法で作られていたようで、その独特の形は、ヴェローナの街のシンボルである『ランベルティの塔』にちなんでいたと考えられています。塔の一番上の部分が確かにケーキっぽい!?

現在の形の『パンドーロ』として明確に歴史に記録されているのは1894年のこと。この年の10月14日、ヴェローナのお菓子職人Domenico Melegattiが当時のイタリア王国の農工商業省に名前・形状・レシピを登録して特許を得ました。
この会社は現在でもあって、パンドーロを販売しています。

ドメニコ氏のお店があった建物はヴェローナ市内に現存し、1920年にVirgilio Turco氏が改装して”Casa del Pandoro(パンドーロの家)”となりました。上方のバルコニー部分にパンドーロ型のオブジェがついています。ただ、現在はここにはお店はありません(別の店舗が入っています)。

ちなみにこのヴィルジリオ・トゥルコ氏もお菓子職人でドメニコ氏と協働していた人で、1909年に自らのお店を開けています。こちらは現存し、街の中心部エルべ広場をはさんで反対側の同じ通りに位置していて、今は3代目のミケーレさんの名前のブランドになっています。
イタリア伝統のクリスマス菓子③パンフォルテ&リッチャレッリ

こちらのふたつは、特にトスカーナ州でよく見かけるお菓子。どちらもシエナという古都が発祥で、もともとクリスマスのお菓子ではありますが、現在では地元の名産品として年中買うことができ、さらにシエナだけでなくフィレンツェなど近隣の街でもたくさん売られています。

パンフォルテとは

イタリア語で『forte』とは『強い』という意味なので、このお菓子は直訳すると『強いパン』という名前になります。
一応、分類的にはケーキみたいなものなんですが、見ての通りケーキ…というより、ギュギュっと詰め込みました!感の強い外観で、実際食べてみると生地がかなりぎっしり詰まっていてなかなかにパワフルなお菓子です。
主な材料は小麦粉と砂糖、それにアーモンドやスパイス、砂糖漬けのフルーツ、ハチミツなど。それをオーブンで焼くというシンプルなレシピ。しかも生地の量と中に入れるものの量がほぼ同じくらいの割合なので、ふわふわの余地なし!

初めて食べたときは加減がわからなかったので普通のケーキ感覚で食べたら、あまりの重さに夕ご飯は要らない…となりました。。まさに強さ全開!!
パン・フォルテの発祥
実はかなり歴史のあるお菓子で、西暦1000年頃には既に文献に登場するそうです。
もともとは、小麦粉と水のみで作られたシンプルなフォカッチャにハチミツや果実を加えた『パンメラート』という食べ物があったのですが、これが春夏の時期にはカビが生えてそのあと乾燥し、酸味のある「強い」味に変化したことから、『強い』パン、と呼ばれるようになりました。
ところでシエナは北ヨーロッパ(イギリスやフランス)からカトリックの聖地ローマまでの巡礼の道、フランチジェナという通りの宿場町の一つでした。そのため古くから交易が活発で、様々な地域のものが入ってきていたのですが、13世紀頃から東洋からのスパイスの輸入が始まり、それが『パンフォルテ』にも使われるようになりました。

とはいえそれらは非常に貴重な品だったので、簡単には手に入りませんでした。主に入手できたのは修道院、または現代の薬局の原型となる薬業者などでした。恐らく、この『パンフォルテ』のオリジナルとなったレシピは修道院が考案し、スパイスをたくさん入手できた薬業者が広めたのだと考えられています。
そういうわけで、この貴重なスパイスをふんだんに使った『パンフォルテ』を食べることができたのは一部の裕福な貴族階級に限られ、なおかつ特別な機会、つまりイエスの生誕を祝うクリスマスの時期の食べ物となったのでした。
このお菓子については、イタリア料理の父と呼ばれるPellegrino Artusi(1820-1911)が、著書『イタリア料理大全』の中でクリスマスの昼食にふさわしいとして薦めているそうです。
リッチャレッリとは

リッチャレッリはアーモンドプードル、砂糖、卵白を主な材料とするお菓子です。2010年、お菓子製品としてイタリアにおいて初めてのIGP(保護指定地域表示)認定を受けました。そのため、『リッチャレッリ』という製品を製造・加工するのはシエナ県においてのみ認められるという厳しい制限が課せられています。
材料の半分近くをアーモンドプードルが占めるのでその風味が非常に強く、また卵白を使うことから外がサックリ、中がしっとりという食感になっています。
レシピによってはオレンジピールやハチミツを加えるものも。

そのままでも美味しいですが、ヴィンサントなどの甘いデザートワインと一緒に食べることも多いでーす
リッチャレッリの発祥
このお菓子は、かなり古くからあったようではありますが、その起源があまりはっきりしていません。
アラブ世界から伝わったのであろうことと、マジパンをベースに誕生したということを通説として、一応はトスカーナの宮廷で14世紀頃に生まれたと考えられています。
15世紀後半に生きた女傑Caterina Sforzaの宴席にあったことが伝わっており、その際の名前は『シエナ風マジパン』『モルセッッレッティ(=”小さな一口”)』などといった感じで呼ばれていたようです。
伝説では、Ricciardetto Della Gherardescaという騎士が十字軍から帰還した際に持ち込んだまたは紹介したとされており、形と名前の由来はアラブ世界の王スルタンたちが履いていた、中東の典型的な『バブーシュ』というつま先がカールした履物から来たようです。

「カールした」という意味の言葉はイタリア語では「arricciata」…ということから、アッリッチャータ→…→リッチャレッリになったっぽいでーす
こちらも同じく、アーモンドであったり砂糖であったり、中世では貴重な材料をふんだんに使うお菓子なので、特別な機会であるクリスマスに供されていたものが現代にも習慣として残っているようです。
その他のクリスマスのお菓子
他にもまだまだ!地域ごとに伝統クリスマス菓子があります。中でも有名なものを一部、ご紹介します。
カンパーニャ州『ストゥルッフォリ』

カンパーニャ州ナポリを中心とする南エリアでよく作られるお菓子で、一応はクリスマス菓子ですが、カーニバル時期にもよく見られるそうです。
さくらんぼの実のように丸くした生地(一粒1cm以下)を揚げてハチミツをかけ、さらに砂糖漬けのフルーツやカラフルなスプレーでデコレーションします。オーブンで焼くバージョンもあるようです。

小さい揚げパンにハチミツをかけてあるもの、と思えば、確かに美味しそうですね!
ついつい食べ過ぎてしまいそうでカロリーが怖いですけども。。
伝説ではナポリがギリシアの植民地だった時代にもたらされたものだとも。それゆえ、名前の由来はギリシア語の「στρόγγυλος(=丸まった)」だとする説がよく言われます。なるほど、ストロンギロス→ストゥルフォッリ、遠からずですね。
トレンティーノ・アルト・アディジェ州『ゼルテン』

松の実やクルミなどのナッツ類や砂糖漬けのフルーツをベースとしてよく使い、レーズンやシナモンも入れます。材料からしてリッチな冬のお菓子という感じですね!地域や場所によって材料にはバリエーションがありますが、ベースの材料の他に小麦粉、卵、バター、砂糖などを加えるレシピも。
名前の『zelten』はドイツ語の『selten(=まれに、珍しい)』という言葉を語源とし、その名の通り、年に一度のクリスマスのお祝いのためのお菓子だから、ということです。
1700年頃には料理関係の記述の中に登場しているようで、なかなか歴史あるお菓子です。
アブルッツォ州『パッロッツォ』

最後に、こちらはアドリア海に面するアブルッツォ州ペスカーラから。
名前の由来はpane rozzo(=粗削りなパン)、もともとは農夫たちがトウモロコシの粉で適当に作った粗野な感じの外側が焦げたパンの一種から。裕福ではない人たちが日持ちのするように作ったものでした。現在のレシピは、トウモロコシの粉にアーモンドプードルを加えた生地で、外側をビターチョコで覆ってあります。
これは実はかなり新しいお菓子で、1920年の発明です。ペスカーラのケーキ職人Luigi D’Amicoが、pane rozzoから形と色を着想し、アーモンドの粉をベースに黄色の生地は卵で表現しました。外側のチョコレートは実はオーブンで焼いて焦げたパンをイメージしたものだったそうです。
このお菓子は、イタリア王国時代(1861-1946)の詩人であり政治家でもあったGabriele D’Annunzioが大絶賛し、それを褒めたたえる『La canzone de lu Parrozze』という歌まで作ったそうです。

ざっくりいうと、なんだこの甘くておいしいお菓子はー!みたいな感じで歌ってまーす

フィレンツェガイド
Azu
イタリア政府公認観光ガイド。 得意ジャンルは美術、街歩き、ワイン。好きな芸術家は、ブロンズィーノとドナテッロ。有名作品もいいけど、隠れ注目ポイントや裏話が大好き!普通のガイドブックじゃ見つからない、”ここだけの話”をお伝えします♪
