1月6日は「エピファニア(Epifania, 公現祭)」といってイタリアは祝日です。
これは「新約聖書」の中に登場する、イエスの誕生を知った東方三博士が贈り物をもって駆けつけるというエピソードが基になった、キリスト教の大事な行事のひとつ。
昔から、たくさんの芸術家が作品に表現される題材として好まれてきました。
このテーマを描いた作品の中では有名な、ボッティチェリの作品を紹介します。
目次
エピファニア(公現祭)をテーマに描かれた作品
この作品は「春」「ヴィーナスの誕生」の作者、ボッティチェリが描いた作品。
タイトルを「ラーマ家の東方三博士の礼拝」と言います。
ガイド学校の先生カテリーナ
描かれている場面は、新約聖書の中に登場する「東方三博士の礼拝」。
特別な星が輝くのを見つけた博士たちが、贈り物を持ってキリスト(=救い主)を拝みに来るというシーン。
東方三博士
画面中央には聖家族(ヨセフ、マリア、イエス)が一段高いところに描かれ、最も年長の博士とそれに続く二人の博士、そしてその他行列に参列している人々という風景です。
このテーマは古くから絵画の題材として好まれ、たくさんの作品が作られてきました。
では、なぜその中でもこの作品が有名なんでしょうか?
伝統的な構図を大胆に変更したボッティチェリ
ボッティチェリがこの作品を描いたのは1475年のこと。
それまでもこの題材はたくさんの芸術家が描いてきました。
有名なのはこちらの作品など。
14世紀
15世紀初頭~中ごろ
伝統的な構図では、画面の端にいる聖母子(聖家族)のもとに、博士たちを先頭とする行列が続いています。
それがボッティチェリの作品ではこうなりました。
聖家族が他の人物より一段高いところに描かれ、その周りを囲むようにして東方三博士とそれに従った人々が描かれていて、三角形の構図になっています。
ガイド学校の先生カテリーナ
ボッティチェリ以降は、この「東方三博士の礼拝」を描くときにこの構図が採用されるようになりました。
あのレオナルド・ダ・ヴィンチも、1482年に手掛けた作品では、ほぼこの構図を真似て作っています。
ただしレオナルドはこの作品を完成させずにミラノへと旅立ってしまったので残っているのはこの未完成作品のみ。
ガイド学校の先生カテリーナ
これを引き継いで完成させたのが、こちらのフィリッピーノ・リッピの作品。
フィリッピーノ・リッピはボッティチェリの弟子。そして、ボッティチェリの師匠だったフィリッポ・リッピの息子です。
ガイド学校の先生カテリーナ
実は隠しキャラも…三博士の正体
そしてこの作品が有名な理由はもう一つ。
この中に登場する人物は、単に聖書の人物を表現しただけではなく、当時の人々の肖像が描かれているからなんです。
その息子か?家族の一員と思われる人物(左)
東方三博士のいちばん年長の老人は
コジモ・イル・ヴェッキオ(老コジモ)
ピエロ・イル・ゴットーゾ(痛風病みのピエロ)(左)と
ジョヴァンニ・ディ・コジモ・イル・ヴェッキオ(右)
ピエロ・イル・ゴットーゾの息子たち、
ロレンツォ・イル・マニフィコ(ロレンツォ豪華王)(右)と
ジュリアーノ・デ・メディチ(左)
ガイド学校の先生カテリーナ
サンドロ・ボッティチェリ作「春(プリマヴェーラ)」まさに春の喜びが溢れた幸せいっぱいの名画!
アニョロ・ポリツィアーノ(左)と
ピーコ・デッラ・ミランドラ(右)、
メディチ家の親戚ロレンツォ・トルナヴォーニ
こんなに出そろうと、まるでメディチ家が主役のようです。
注文者のガスパールはなぜ、自分の一族ではなくメディチ家をこんなに描かせたのでしょうか?
ガイド学校の先生カテリーナ
そして、最後に、画面の端っこでこっそり私たちのことを見ている人が…!
ボッティチェリの自画像です!30歳、脂がのってます。
いつも見かける、アレがいなくてコレがいる!?
牛や馬がいない…代わりに
そしてイエスの誕生のシーンと言えば
彼らがベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちて、初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。…(羊飼いたちは)急いで行って、マリアとヨセフ、また飼い葉桶に寝かせてある乳飲み子を探し当てた。
-「新約聖書」日本聖書協会:ルカによる福音書2より
と新約聖書に書かれているので、馬とか牛とかがいることが多いです。
ガイド学校の先生カテリーナ
前述の他の作品でもほとんど描かれていますよね。
ボッティチェリのこの作品では、あばら家のような小屋は描かれているものの、牛や馬は見当たりません(ジュリアーノの左手に顔を出している馬がいますが、これはここに元いたものではなく、博士たちの行列とともに到着したと考えられます)。
…が、その代わりに…
クジャク!!( ゚Д゚)
この時代の作品にクジャクはちょいちょい登場します。
実は、シンボルとして「不死」の意味を象徴しています。
古くからその肉が清廉潔白であると考えられていたためだそうです。
古代ローマ時代の遺跡
画面の右奥には、壊れかけた神殿。
特徴からすると、古代ローマ時代の神殿を示しているよう。
「東方三博士の礼拝」の後ろに、これが描かれている意味。
それは、この世界を正しい世界へ導いてくださる主(=イエス)の誕生によって、これから世界が建設されていくこと。
そして、異教徒(古代ローマ)たちの世界は傾いていくことを示しているのです。