今回ご紹介するのは、ギリシア神話に登場する悲劇のヘルマプロディートス。
優秀な父と美しい母の間に生まれ、誰もが見惚れる美しさを持った主人公が、その美しさゆえに思わぬ悲劇に巻き込まれてしまうお話。
フィレンツェのウフィツィ美術館の他、パリのルーブル美術館やローマ国立博物館にも同じ主題の作品が展示されている、人気モチーフのひとつです。
Azu
『男?それとも、女?』
ぜひ、考えてみてくださいね!!
年代 | 1~2世紀頃 |
作者 | 不詳 |
材質 | パロス島産大理石 |
所蔵 | ウフィツィ美術館 |
由来 | 1669年、フェルディナンド2世・デ・メディチ(Ferdinando II de’ Medici)により購入 |
目次
登場人物の紹介
ヘルマプロディートス
ヘルマプロディートスは、父・ヘルメス(=マーキュリー)
サルマキス
ヘルマプロディートスの両親
父・ヘルメスはローマ名をマーキュリーといい、商売・旅人・使者の神。オリンポス12神の一人でゼウスの末子、飛びぬけて頭がよく、すばしこい神でした。
何せ生まれたその日にアポロンの牛を50頭も盗み、しかも誰がやったかわからないようにその痕跡を綺麗に消してみせたほど。さらに、最初は怒っていたアポロンさえも最終的には丸め込むという手腕の持ち主。いや、優秀です。
一方の母・アフロディーテはローマ名をヴィーナスといいます。そう、あの有名なウフィツィ美術館のアイドルです!彼女は愛と美の女神。
しかし、そんな美しいイメージとは裏腹に、その美貌を以て数々の男神を惑わし浮名を流し、果てはトロイア戦争の原因まで作ってしまうという、実はなかなか困ったちゃん。
子どものアモレ(=エロスまたはキューピッド)のお嫁さんにもイジワルしたりと、実はまぁまぁキャラが立ってたりもするんです。
この両親二人が同時に登場する有名な美術作品が、こちら。
サンドロ・ボッティチェリ作「春(プリマヴェーラ)」まさに春の喜びが溢れた幸せいっぱいの名画!
さて、そんな個性的な二人から生まれたヘルマプロディートスの物語を、始めましょう!!
ヘルマプロディートスの悲劇
愛と憎しみの物語…といえば、やはりギリシア神話
このお話は、オウィディウス(Publius Ovidius Naso / 43.b.c-17 a.c)作「変身物語」(ギリシア神話の登場人物が様々なものに変身していくお話を集めた作品)に登場するエピソードのひとつ。
舞台はサルマキスのいた、ハリカルナッソス(現トルコ・ボドルム付近)にある泉です。
ヘルマプロディートスとサルマキスの出会い
ある日、少年ヘルマプロディートスは平穏な日常生活に飽き飽きし、広い世界を見に行くことを思い立ちました。
ヘルマプロディートス
ヘルマプロディートス
ということで、いそいそと旅に出かけたヘルマプロディートスはカリア地方でキラキラと輝く泉を見つけます。
この泉こそ、ニンフのサルマキスがいたところ。
突然現れた、ヘルマプロディートスを見たサルマキスは…
サルマキス
サルマキス
サルマキスは、主君アルテミスが永遠の処女の誓いを立てていることから、彼女自身も処女を守らなければならない義務を負っています。
でも、ヘルマプロディートスを見た瞬間にサルマキスはそんなことはすっかりどうでもよくなってしまいました。
ヘルマプロディートスに近づき、ささやきます。
サルマキス
突然現れたサルマキスにビックリしたヘルマプロディートスは
ヘルマプロディートス
と、なんとかサルマキスを拒否します。
サルマキス
そうしてその場を立ち去ったサルマキス。
と見せかけて木陰に隠れてヘルマプロディートスを愛で続けます。ストーカーですね!(; ・`д・´)
思い余ったサルマキスの渾身の願い
サルマキス
一方、サルマキスが立ち去ったと思い込み完全に油断したヘルマプロディートスは、興味深げに泉に近づき、服を脱いで水浴びすることを思いつきます。
ヘルマプロディートスが完全に裸になって泉の中に入った、そのとき!
サルマキス
ヘルマプロディートス
ヘルマプロディートスの胸にがっちりと抱きつき、キスをするサルマキス。
逃げようとあがくヘルマプロディートスに抱きついたまま、サルマキスは叫びました。
サルマキス
そして彼女が叫んだその瞬間、願いは聞き届けられ、文字通り二人は一心同体に。
こうして一人の身体に男性と女性、双方の特徴を持つ「両性具有」が誕生したのでした。
そして己の運命を呪ったヘルマプロディートスは、恥ずかしさと怒りのため、同じく神々に願ったのでした。
ヘルマプロディートス
ということで、冒頭のクイズの答えは、男性でもなく女性でもなく、「両性具有」でした!!
Azu
それにしても、ただ美しかっただけなのに、可哀想なヘルマプロディートス!
何も悪いことしたわけでもないのにね…ギリシア神話って別に教訓とかない、理不尽なものも結構多いですね。
この彫刻を見つけたら、そんな可哀想なヘルマプロディートスに思いを馳せてみてください。
今回ご紹介した作品が見られるのはこちら。