イタリアワインのエチケット(ラベル)には、よくD.O.C.G.とか、D.O.C.とか書いてありますよね。最近ではD.O.P.というのも見かけるようになりました。
この違いって何なんでしょう??
それに、よく似た二つのワイン、
「キャンティ」と「キャンティ・クラシコ」ってよく聞くけど…何が違うの??
今回はそんなワイン入門者の素朴な疑問にお答えします!
目次
D.O.C.G.とD.O.C.の違い
ヨーロッパ各国には伝統的に定められているワイン法があります。
これはワインの品質を保証・管理するため、品種や生産地、栽培方法、熟成期間などが細かく定められた規定のこと。
なんとこれ、日本には長年なかったんですよ!
でも最近、日本国内でもワイン生産者が増えて品質が向上したことやワインラバーが増えて消費量も拡大しつつあることを受けて、ようやくワインの品質保証に関する意識も高まってきて、いよいよ2018年秋からワイン法(「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の6(種類の表示の基準)」に基づく「果実酒等の製法品質表示基準(国税庁告示)」)が施行されました。
イタリアのワイン法、その内容はこんな感じになっています。
D.O.C.G.=保証付き統制原産地呼称ワイン/Denominazione di Origine Controllata e Garantita
D.O.C.= 統制原産地呼称ワイン/Denominazione di Origine Controllata
I.G.T.=地理特性表示ワイン/Indicazione Geografica Tipica
V.d.T.=テーブルワイン/Vino da Tavola
※D.O.C.G.への昇格はD.O.C.になってから最低10年を経過してから認められる。
※D.O.C.への昇格はI.G.T.になってから最低5年を経過してから認められる。
※読み方はそのままアルファベット読み。例)ディー・オー・シー・ジー
この法律は2009年に適用された新EU法以降は、少し改正されました。
現在はこのようになっています。
D.O.P.=保護原産地呼称ワイン/Denominazione di Origine Protetta
(旧D.O.C.G.とD.O.C.が合体)
I.G.P.=地理特性表示ワイン/Indicazione Geografica Protetta(旧I.G.T.)
Vino=テーブルワイン/Vino(旧V.d.T.)
※格付け表示はEU法によるもの(D.O.P.等)、伝統的格付け表示(D.O.C.G.等)どちらかを選んで表示してもよいし、両方表示してもよいことになっています。
まぁ要するに、ワインって一言でいっても種類が多すぎてピンキリなわけなんですが、それだと買い手のお客さんが困る。
そこで、法律でこのマークがついてたら、ちゃんとルールを守って一定の品質のワインになってますよって保証しましょうっていうシステムです。
だから、マークがついているととんでもない品質のものは混ざってこない(はず。造り手がズルをしなければ…)。なので一定の目安にはなる、そういうイメージです。
ズルをしなければ…とは言っても、大多数の造り手さんは自分の作品=ワインに誇りを持って一生懸命ブドウを育てているので、そんなズルをする人はほんの一握りだし、そういうワインはやっぱりすぐ廃れますのでご安心ください!
でも、マークがついているイコール美味しい、というわけではないことにご注意ください
なぜなら、ワインの感じ方は人それぞれ。
Aさんが美味しいと感じてもBさんの口に合わない、ということは十分あり得ます。
どんな食べ物・飲み物でもそうですよね。
例えば同じ乳製品でも
牛乳は好きだけどヨーグルトは嫌い
乳製品はなんでも好き!
ヨーグルトは好きだけどチーズは嫌い
みたいな感じで、人によって色々ですよね。
そんなわけで、ワインとD.O.C.(D.O.P.)の関係について、なんとなーくわかっていただけたでしょうか?
さて、日本でよくきくD.O.C.G.と言えば、
「キャンティ」と「キャンティ・クラシコ」。
この二つは、いったい何が違うのでしょうか?
雰囲気的に「クラシコ」の方がお高そうな気がするなぁ…!?
その違いは、キャンティの歴史をたどるとわかります~
キャンティとキャンティ・クラシコの違い
キャンティエリアの歴史
さて、それではキャンティ地方の歴史をひもといてみましょう。
もともとこのエリアでは紀元前数百年前からワイン用のブドウが栽培されていました。
その品質の良さは13世紀頃にはすでに近隣で評判で、フィレンツェの裕福な商人や貴族たちが好んで愛飲していたのです。
1716年のこと、時のトスカーナ大公コジモ3世はこの偉大なワインを生み出すエリアを、ここは特別!として栄誉ある境界線を決めることにしました。
この時に決められた境界線が、キャンティ地方の由来です。
そこで生み出されるワインには「キャンティ」というお墨付きが与えられるようになり、生産者たちは誇りを持ってワインを作るようになりました。
当然、お墨付きの「特別」なワインなので、高く取引されるようになります。
すると、面白くないのがエリアからわずかに外れた生産者たち。
そこがキャンティならうちだってキャンティじゃん、同じブドウで同じ造り方してるし…
じゃあうちだって!
って次々に”キャンティ”を名乗る生産者が現れたのです。
まぁ、いわば、最初に大阪市をキャンティ、って決めたら吹田市、守口市、八尾市、堺市、はては尼崎市まで「うちもうちも!!」って乗っかってきた、みたいな。
いや、ちゃうやん!!尼崎に至っては県すら違うし!!
ってツッコミたくなるような状況が生まれたわけですね。※尼崎は兵庫県です。
そうしているうちにとっても広がってしまったキャンティ地方、結果的にはそれこそ色んな種類の生産者が玉石混合、ピンキリ状態になってしまいました。
広大なキャンティエリアでは、伝統を重んじるきちんとした造り手さんもいれば、名前の偉大さにあぐらをかいて適当な造り手さんもいる。
それでは消費者のためにならない!と、元祖キャンティエリア「キャンティ・クラシコ」と「キャンティ」が区切られました。1932年のことです。
(参照:Consorzio vino chianti classico -La Storia)
※「クラシコ」はイタリア語で「classico」、「伝統的な・昔ながらの」という意味です。
地図を見るとよくわかります。
赤いエリアがキャンティ・クラシコ、グレーの線で区切られた大きなエリアがキャンティエリアです。
クラシコはキャンティに囲まれています。
なので、この二つの違いはというと「エリア」の違い。
もともと指定された「元祖」なだけあって、クラシコの方が質のいいワインを生産することが多いですが(それゆえお値段も高いことが多いですが)、この二つの違いは決してワインそのもののランクの上下を決めるものではないのです。
ただ、20世紀半ば頃まではキャンティエリアでは「安かろう悪かろう」の大量生産・低価格ワインもたくさん作られていました。”全体的な傾向として”クラシコエリアに比べると、量より質を追うキャンティ生産者が多いこともあって、当たり外れが激しいというのは事実です
キャンティ・クラシコのシンボル、黒い雄鶏”ガッロ・ネーロ(gallo nero)”
さて、キャンティクラシコにはこのような雄鶏のマークが使われています。
このマークが作られることになった小話が可愛らしいんです。
昔々、キャンティ(クラシコ)地方をはさむ二つの都市、フィレンツェとシエナはいつも領地争いをしていました。
ずっと続いてきたこの争いにお互い疲れた二つの街は、ある時次のような取り決めをしました。
『勝負の日の朝一番、鶏の鬨の声と同時にそれぞれの街を出発した騎士が、出会った場所を二つの街の境目とする』
この時に、シエナは 白い雄鶏 を、フィレンツェは黒い雄鶏を選びました。
勝負の日前日。
翌日の朝、出遅れないよう鶏に力いっぱい鳴いてほしい!!
と、シエナの人々は白い雄鶏にごちそうをたらふく与えました。
これに対してフィレンツェの人々は黒い雄鶏に何も与えませんでした。
さて、勝負の朝になりました。
お腹が空いたフィレンツェの黒い雄鶏はいつもより早く、猛々しく叫びます。
ハラヘッター!!!
( `へ´)=3
一方そのころシエナでは。
満腹の白い雄鶏はすやすやとお休み中。
前の晩酒盛りをしていた人々も同じく夢の中…
結果、白い雄鶏が鳴き起こしてシエナチームが出発したころには、フィレンツェの騎士はシエナの街まで残り10kmというところまで迫っていました。
というわけで、
見事キャンティ地方の大半を手に入れたフィレンツェチームは、その功績をたたえ、黒い雄鶏をエリアのシンボルにしてあげましたとさ。
この昔話に基づいて、1924年にワイン生産者協会が伝統的キャンティワインを普及するために生まれた時に、そのシンボルとして採用されたのです。
そして1984年にキャンティワインはD.O.C.G.の銘柄となり、さらに1996年、キャンティ・クラシコは独立したD.O.C.G.を獲得するに至りました。
近年では、キャンティ・クラシコエリアでのキャンティワインの生産は禁止されています(2010年より)。
キャンティ・クラシコのブランドをきちんと守り後世に伝え、昔と同じ過ちを繰り返さないぞという意思表示なのかな