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ゲームでも神話でも大活躍!怪物界のエリート「キメラ」。

キメラ」という存在を知っていますか?

キメラ」は「キマイラ」とも呼ばれ、ギリシア神話に登場する怪物です。

最近では、人気ゲームのモンハンで見た目がおかしな装備のことを「キメラ装備」と呼んだり、漫画・アニメの「鋼の錬金術師」でその名前が使われたりしているようですが、もとはこの怪物から名前を取っています。

どうもこの怪物は昔から(ある意味)人気があったようで、紀元前5世紀頃にフィレンツェ近郊のアレッツォという街にいたエトルリア人がブロンズでなかなか立派な作品を作っています。

ルネサンス美術が並ぶフィレンツェの街でちょっと異質だけど興味をひかれるこの「キメラ」、どんなストーリーが詰まっているのでしょうか?

ギリシア神話に登場する「キメラ(キマイラ)」

『キメラ』作者不詳, 紀元前5世紀終わりから紀元前4世紀初め, ブロンズ, 国立考古学博物館(フィレンツェ)

「キメラ」はギリシア神話に登場する怪物の名前。

頭はライオン、ヤギの体、尻尾は毒蛇というなかなかゴージャスな容貌です。

どう見ても普通じゃない見た目だし、両親とももちろん怪物という言わば血統書付きの怪物(!)

キメラの父はテュポーン、母はエキドナ。

ギリシア神話の登場人物はエピソードがぶっ飛び過ぎてて、しかもてんこ盛りなので要約するのが非常に難しいんですが…

キメラの父、テュポーンとは

かいつまんで言うと、テュポーンは全世界を生み出した女神、ガイアの末子。

だから一応、神のはずなんですがその容貌は凄まじいもので、とにかく巨体

頭は天の星すれすれまで到達し、左右の腕を広げると世界を抱え込めてしまうほど、そして肩からは100の竜が生えていて下半身は大蛇

イメージ図が閲覧注意すぎるので気になる方はこちらからどうぞ→テュポーン イメージ図

ちなみにテュポーンはイタリア語でtifone, 英語のtyphoonつまり台風の語源となった言葉。それぐらい暴れ者だったわけです。

母ガイアの孫にあたるゼウス(つまりテュポーンから見ると甥)と壮絶な戦いを繰り広げ、最終的にシチリア島の下に閉じ込められたらしく、今でもその上にあるエトナ火山は時々噴火しています。

シチリア島のエトナ火山 この下にテュポーンが… [写真撮影:herbert2512/pixabayより引用]

キメラの母、エキドナとは

そして母のエキドナは、出自がはっきりしませんが、一説にはテュポーンと同じガイアを母に持つという話も。

こちらも見た目は上半身は美しい女性下半身はとぐろを巻いた大蛇…名前の意味はギリシア語で「マムシ」だそうです。

エキドナは洞窟に棲み、近くを通りかかった家畜や旅人を引きずり込んでは貪り食っていたそうな。

テュポンとの間にはキメラの他、冥界の番犬ケルベロスや、ヘラクレスに倒された蛇(竜?)のヒュドラ―などたくさんの怪物の子どもたちをもうけました。

【左】『ケルベロス』ルカ・ジョルダーノ, 1682-1685, フレスコ, メディチ・リッカルディ宮殿(フィレンツェ)【右】『ヘラクレスとレルネのヒュドラ』ギュスターヴ・モロー, 1876, キャンバスに油彩, シカゴ美術館(シカゴ)

テュポンがエトナ山の下に閉じ込められてからは息子オルトロスとの間にも子を作り、その中にはあのエジプトのピラミッドを守るスフィンクスもいます。

『スフィンクス』作者不詳, 紀元前13世紀頃, エジプト博物館(トリノ)

キメラの一生

『キメラ』作者不詳, 紀元前5世紀終わりから紀元前4世紀初め, ブロンズ, 国立考古学博物館(フィレンツェ)

そんな怪物界のエリートを両親に持つキメラ(キマイラ)

こんなにたくましい見た目をしていますが、実は…女の子!!!

Azu
Azu

このライオンの頭ってオスじゃないのかな…

細かいことを気にしてはいけません。ここは神話の世界ナンデモアリ。

とにかくキメラは見た目通り平和な動物ではなく、リキュア(現在のトルコ辺り)で領地を荒らしまわっていたのです。その口からは火炎を噴き出し、山を焼き尽くしたりもしていました。

結局、彼女(?)はペガサスに乗った英雄ベレロフォンに殺されることになります。

ちょっとした陰謀に巻き込まれ、キメラのもとにやってきたベレロフォン。
火炎を吐きだすためにキメラが口を大きく開けたところを見計らって、鉛の塊をつけた槍をキメラの口に放り込みます。
火炎の出る高温の口の中で鉛は溶けてキメラの喉をふさぎ、最後は窒息してしまいました。

フィレンツェにやってきたキメラ

メディチ家のコジモ1世がコレクションに

さて、このギリシア神話の怪物キメラをかたどったブロンズ像は、紀元前4~5世紀のエトルリア時代のものと考えられています。

1553年11月15日、アレッツォというトスカーナ州の街で発見されました。

それがなぜフィレンツェに?

実はこのブロンズ像が発見されたところにメディチ家の要塞を作ろうとしていたのです。その工事作業中に発見され、メディチ家当主のトスカーナ大公コジモ1世により、すぐさま彼のコレクションに加えられました。

『コジモ1世の肖像』アニョロ・ブロンズィーノ, 1545, 板に油彩, ウフィツィ美術館(フィレンツェ)

これは当時としてもセンセーショナルな大発見!!

ヴァザーリ、チェッリーニ、ティツィアーノなど当代の芸術家や文学者の間で話題になり、また外国からの客人もこのことで持ちきりでした。

最初はヴェッキオ宮殿のレオ10世の間に飾られていましたが、すぐにピッティ宮殿のコジモ1世の部屋に。

ヴェッキオ宮殿内『レオ10世の間』に飾られていたときの復元イメージ

彼のお気に入りの彫刻家のひとり、ベンヴェヌート・チェッリーニによると、

『大公は趣味の時間にオラフォ(彫金師)の道具を使って、このブロンズ像の掃除をするのをとても楽しんでおられた』

だそうです。

旅好きナナミちゃん
旅好きナナミちゃん

大公にしては意外な趣味だねぇ…!

発見された当時は尻尾の毒蛇が欠けていた状態だったので、ライオンの像かもしれないと考えられていたのです。だから発見翌年に修復されたキメラの姿をスケッチした図には、尻尾がありません。

発見翌年のキメラ像のデッサン A.フォルトゥナーティ, 1583 国立書庫, グッビオ
発見翌年のキメラ像のデッサン
A.フォルトゥナーティ, 1583
国立書庫, グッビオ
引用元:http://www.archeologicatoscana.it/wp-content/uploads/2009/11/Chimera-dArezzo.pdf

現在の姿に修復されたのは18世紀のこと。

ところで恐らく、この修復後の姿は本来のものとは違っていると思われます。

なぜなら、尻尾の部分の毒蛇はヤギの角に噛みつくような恰好になっていますが、本来なら尻尾の毒蛇は敵であるベレロフォンを見据えていたはず。

『キメラ』作者不詳, 紀元前5世紀終わりから紀元前4世紀初め, ブロンズ, 国立考古学博物館(フィレンツェ)

それにヤギにとっては蛇は自分自身の体の一部でもあるので、噛んだら痛いですよね…

どうして間違えられたかは不明ですが、修復を担当した人は神話をよく知らなかったのか、苦しそうな表情のライオンの顔を見て予測でつけたのか… 😯

キメラの像が作られたワケ

ところでどうして、わざわざ邪悪な(と考えられていた)キメラを作ったのか?

これはあくまでも仮説でしかないのですが、

歴史学者
歴史学者

このブロンズ像とセットでペガサスに乗ったベレロフォンの像も作られていたのではないか

と考えられています。

キメラの前脚には「TINSCVIL」と読める文字が彫られていて、これは「TinまたはTinia(ティアナと呼ばれるエトルリアの最高神、ギリシア神話でいうところのゼウス)に捧げる」の意味となるからです。

『キメラ<部分>』作者不詳, 紀元前5世紀終わりから紀元前4世紀初め, ブロンズ, 国立考古学博物館(フィレンツェ)

もし、ベレロフォンの像がセットであったなら、きっとこの場面はキメラが口の中に槍を放り込まれてまさに退治される瞬間だったのでしょう。

残念ながら、この仮説を実証する他のブロンズ像などは見つかっていませんが、こういう仮説をイメージするのってとても世界が広がって楽しいですね!

遺伝学上の「キメラ」も元を正せばこのキメラ

現代では「キメラ」というと、「遺伝学上(生物学上)のキメラ」という使われ方もします。

生物学における キメラ (chimera) とは、同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること。またそのような状態の個体のこと。

Wikipedia 「キメラ」より

ごく稀に、このような遺伝子を持つ人が存在し、その場合は親子間でDNA鑑定をしても一致しないという不幸な状態が生まれることがあります。

実際にあった事例では、「夫の精子で人工授精したはずの子が、鑑定の結果100%夫のDNAと一致せず、兄弟の子とされた(が、当の夫に兄弟はいない)」というものがあります。

納得のいかないサム夫婦は、より正確な親子鑑定を行うため、DNAを調べてもらうことに。 その結果、サムと生まれた子供は遺伝子上、親子ではないと判定されたのだ。

実はサム夫妻は不妊治療を行なっていて、人工授精によって第2子を授かっていた。
(中略)
精密な遺伝子検査の結果、子供の父親は、なんとサムの兄弟だというのである。

ところが、「それはありえません。だって私には、兄弟なんていませんから。」
(中略)

実はサムの母親がサムを身ごもった当初、彼は二卵性の双生児だったのだという。 近年の研究により、全体の8分の1もの割合が、妊娠時に単独妊娠ではなく、多胎妊娠だったことが明らかになっている。 それでも、ほとんどの場合妊娠初期に1つを残して他は子宮に吸収されてしまう。

ところがサムの場合、何らかの作用が起こり、子宮ではなくサム自身が双子の兄弟の細胞を吸収。 自分の一部にした結果、サムの体は、自分と吸収されて消えたはずの兄弟の遺伝子が混在する非常に稀な体質になったというのである。

フジテレビ奇跡体験!アンビリバボー【なぜ? 血液型で親子関係が否定】より

↓詳細はこちらの記事に。

また、自分で産んだはずの子なのに3人ともDNAが一致せず、詐欺を疑われ生活保護が受けられない(どころか子どもたちを取り上げられてしまうかもしれない)ピンチに陥ったという女性も。

どちらの事例も、

親となった人がもともと二卵性双生児として受精したものの、
何らかの事情で母親の胎内にいる間にひとつの受精卵が
もうひとつの受精卵を吸収してしまった。

その結果、一人の身体として生まれたが体内にもう一人の遺伝子情報を持っている。

という状態が生まれたみたいですね。

生命って不思議…!!

確率的には10億分の1という希少な事例ではありますが、現在全世界で30~40例ほど、でもそのうちの少なくとも3例がアメリカで見つかっているって…アメリカすごい!

フィレンツェの国立考古学博物館 観光情報

このキメラ像があるフィレンツェの国立考古学博物館は実はかなり規模の大きいところ。

エトルリア美術のほか、ギリシア美術や古代エジプトの貴重な品まで、豊富なコレクションを取り揃えています。

まだ宗教画にはちょっと早いかなーっていう子どもさんでも、昔々のロマンあるお話は想像力を働かすのにちょうどいいかも。よく地元フィレンツェやイタリアの他の都市から、子どもたちが遠足で来ているのを見かけます。

エトルリアセクションには、キメラの他、同じくギリシア神話の登場人物ミネルヴァのブロンズ像や、当時の宴の世界を想像できるような作品なども色々ありますよ。

国立考古学博物館